L-カルニチンはヒストンのアセチル化を高めて、がん細胞の増殖を抑制する

f-gtc (2012年12月 4日 16:41)

L-カルニチンはヒストンのアセチル化を高めて、がん細胞の増殖を抑制する

L-Carnitine Is an Endogenous HDAC Inhibitor Selectively Inhibiting Cancer Cell Growth In Vivo and In VitroL-カルニチンは内因性のヒストン脱アセチル化酵素の阻害剤で、生体内(in vivo)および試験管内(in vitro)でがん細胞の増殖を選択的に阻害する)PLoS One. 2012; 7(11): e49062.

【要旨】

L-カルニチンは、一般的には、脂肪酸を分解してクエン酸回路でATPを産生するために、長鎖脂肪酸のアシル基をミトコンドリアのマトリックスに運搬する役目が知られている。がん細胞ではATP産生は主に細胞質での解糖系に依存しているというワールブルグの理論に基づいて、我々は、L-カルニチンをがん細胞に投与すると細胞代謝の調節に異常を来して細胞死を誘導するのではないかと予想した。この研究では、ヒト肝細胞がん細胞株のHepG2SMMC-7721と、胸腺細胞の初代培養、HepG2を移植したマウスを用いた。ATP量はHPLC(高速液体クロマトグラフィー)法にて測定した。細胞周期はフローサイトメトリーにて、細胞死と生存率はMTSにて測定した。遺伝子、mRNA発現、タンパク量は、それぞれgene microarrayreal-time PCR、ウェスタンブロット法にて測定した。ヒストン脱アセチル化酵素の活性とヒストンアセチル化の状態は試験管内および培養細胞にて測定した。L-カルニチンとヒストン脱アセチル化酵素の分子レベルでの相互作用はCDOCKER protocol of Discovery Studio 2.0にて行った。

以上の実験にて、以下のことが明らかになった。

(1)  培養細胞および移植腫瘍を使った実験系でL-カルニチンはがん細胞の増殖を選択的に抑制した。

(2)  L-カルニチンの投与によって、がん細胞においてがん抑制遺伝子のp21cip1遺伝子の発現を選択的に高めたがp27kip1の発現は高めなかった。

(3)  L-カルニチンは正常胸腺細胞とがん細胞の両方において、ヒストンのアセチル化を高め、アセチル化したヒストンの量を増やした。

(4)  L-カルニチンはヒストン脱アセチル化酵素IIIの活性部位に結合することによってこの酵素の活性を阻害し、ヒストンのリジンのアセチル化を高めた。

(5)  L-カルニチンはp21cip1遺伝子の部分のクロマチンのアセチル化ヒストンの量を増やしたが、p27kip1遺伝子のクロマチンのアセチル化ヒストンの量には影響しなかった。

これらの結果は、L−カルニチンは脂肪酸のアシル基をミトコンドリアに運搬する役目の他に、ヒストン脱アセチル化酵素の内因性の阻害剤としても作用していることが示され、その生理的および病的意義の重要性が示唆された。

(訳者注)

人間の1個の細胞の核には、約30億対のヌクレオチドからなるDNA(デオキシリボ核酸)が格納されています。このDNAが遺伝子の本体です。細胞核内では、DNAヒストンという球状の蛋白質複合体に巻き付くような状態で存在します。ヒストンはリシン(リジン)やアルギニンといった塩基性(プラスの電荷をもつ)のアミノ酸が多く、酸性(マイナスの電荷をもつ)のDNAと強い親和性を持っています。ヒストンは、長いDNAをコンパクトに核内に収納するための役割と同時に、遺伝子発現の調節にも重要な役割を果たしています。ヒストンによる遺伝子発現の調節は複雑ですが、簡単に言うと、「ヒストンとDNAの結合は転写に阻害的に働く」ということです。遺伝子が転写されるためには、転写因子やRNAポリメラーゼなどの他の蛋白質がDNAに結合する必要があり、ヒストンが結合していると転写に邪魔になります。したがって、転写の活発な遺伝子の部分ではヒストンとDNAの結合が緩くなっています。
DNAとヒストンの結合を緩くする機序として、「ヒストンのアセチル化」という現象があります。アセチル化というのは、アセチル(CH3CO)基が結合することです。ヒストンのN末端領域のリシン残基のアミノ基(-NH2)がアセチル化という修飾を受けるとアミド(-NHCOCH3)に変換し、リシン残基の塩基性が低下して酸性のDNAとの親和性が無くなり、DNAからヒストンが離れ、DNAが露出することになります。一般的に、ヒストンが高度にアセチル化されている領域の遺伝子は転写が活発に行われていることを示しています。すなわち、ヒストンのアセチル化は遺伝子発現を促進(正に制御)し、 反対に、ヒストンが脱アセチル化(低アセチル化)されることにより遺伝子発現は抑制(負に制御)されると考えられています。ヒストンのアセチル化と脱アセチル化の反応は「ヒストンアセチル基転移酵素(=ヒストンアセチルトランスフェラーゼ)」と「ヒストン脱アセチル化酵素(=ヒストンデアセチラーゼ)」によってダイナミックに制御されており、遺伝子発現のON/OFFのメインスイッチになっていると考えられています。このように、ヒストンのアセチル化などによって遺伝子発現を調節する現象を「エピジェネティクス(epigenetics」と言います。がん発症の原因は,がん遺伝子やがん抑制遺伝子の変異,すなわち塩基配列上の変化が蓄積し,細胞増殖,接着,細胞死などの制御が異常になることによると考えられています。しかし,一方で遺伝子の塩基配列の変化を伴わない遺伝子の発現異常,すなわちエピジェネティックな変化も発がんに大きく寄与していることが近年明らかになってきました。その中で遺伝子発現の活性を調節するヒストンアセチル化は重要な役割を果たすと考えられています。P21cip1は細胞周期の進行を担うサイクリン依存性キナーゼ(CDK)の活性を抑制するインヒビターの一つで、細胞増殖の停止、分化や老化に関わっており、がん抑制因子として捉えられています。ヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase)の阻害は、本論文のようにp21cip1のような細胞周期の進展を阻害する遺伝子の発現を高めることによってがん細胞の増殖を抑える作用が報告されており、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤はがんの治療薬として注目されています。

L-カルニチンには、抗がん剤治療中やがん性悪液質における倦怠感を緩和する効果が臨床試験で示されています。さらに、この論文では、ヒストン脱アセチル化酵素の阻害によるヒストンのアセチル化というエピジェネティックな機序によってがん細胞の増殖を抑える効果が示唆されていますので、がんの治療にL-カルニチンを多く摂取することは有用だと考えられます。 

原文

PLoS One. 2012; 7(11): e49062.

Published online 2012 November 5. doi:  10.1371/journal.pone.0049062

PMCID: PMC3489732

L-Carnitine Is an Endogenous HDAC Inhibitor Selectively Inhibiting Cancer Cell Growth In Vivo and In Vitro

Abstract

L-carnitine (LC) is generally believed to transport long-chain acyl groups from fatty acids into the mitochondrial matrix for ATP generation via the citric acid cycle. Based on Warburg's theory that most cancer cells mainly depend on glycolysis for ATP generation, we hypothesize that, LC treatment would lead to disturbance of cellular metabolism and cytotoxicity in cancer cells. In this study, Human hepatoma HepG2, SMMC-7721 cell lines, primary cultured thymocytes and mice bearing HepG2 tumor were used. ATP content was detected by HPLC assay. Cell cycle, cell death and cell viability were assayed by flow cytometry and MTS respectively. Gene, mRNA expression and protein level were detected by gene microarray, Real-time PCR and Western blot respectively. HDAC activities and histone acetylation were detected both in test tube and in cultured cells. A molecular docking study was carried out with CDOCKER protocol of Discovery Studio 2.0 to predict the molecular interaction between L-carnitine and HDAC. Here we found that (1) LC treatment selectively inhibited cancer cell growth in vivo and in vitro; (2) LC treatment selectively induces the expression of p21cip1 gene, mRNA and protein in cancer cells but not p27kip1; (4) LC increases histone acetylation and induces accumulation of acetylated histones both in normal thymocytes and cancer cells; (5) LC directly inhibits HDAC I/II activities via binding to the active sites of HDAC and induces histone acetylation and lysine-acetylation accumulation in vitro; (6) LC treatment induces accumulation of acetylated histones in chromatin associated with the p21cip1 gene but not p27kip1 detected by ChIP assay. These data support that LC, besides transporting acyl group, works as an endogenous HDAC inhibitor in the cell, which would be of physiological and pathological importance.

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