ジクロロ酢酸とメトホルミンはがん細胞の増殖を相乗的に抑制する

f-gtc (2018年2月26日 17:00)

ジクロロ酢酸とメトホルミンはがん細胞の増殖を相乗的に抑制する

Dichloroacetate and metformin synergistically suppress the growth of ovarian cancer cells.(ジクロロ酢酸とメトホルミンは卵巣がん細胞の増殖を相乗的に抑制する)Oncotarget. 2016 Sep 13;7(37):59458-59470.

【要旨】

ジクロロ酢酸とメトホルミンはいずれも、がん細胞の代謝を制御することによって有望な抗腫瘍効果を示している。しかしながら、ジクロロ酢酸は細胞保護的なオートファジーを誘導し、メトホルミンは乳酸蓄積を引き起こす作用によって、その抗がん作用の可能性を制限している。

したがって、それぞれの欠点を克服することによって、それぞれの治療効果を高めることができる。

本研究では、ジクロロ酢酸とメトホルミンが、卵巣がん細胞の増殖抑制とアポトーシス誘導において相乗的に効果を増強することを明らかにした。

興味深いことに、ジクロロ酢酸によって誘導されるMcl-1タンパクと細胞保護的オートファジーをメトホルミンは劇的に減弱し、メトホルミンによって引き起こされる過剰な乳酸蓄積とグルコース消費をジクロロ酢酸が著しく減弱した。

ヌードマウスを使った移植腫瘍の実験では、ジクロロ酢酸とメトホルミンは異種移植卵巣腫瘍の増殖を相乗的に抑制した。これらの結果は、ジクロロ酢酸とメトホルミンの併用は、卵巣がんの治療のための新しい戦略を開発する道を開くかもしれない。

 

メトホルミン(metformin)は、世界中で1億人以上の2型糖尿病患者に使われているビグアナイド系経口血糖降下剤です。糖尿病だけでなくがんの予防や治療の分野でも注目されており、がんの発生を予防する効果やがん細胞の抗がん剤感受性を高める効果が報告されています。

メトホルミンはミトコンドリアの呼吸酵素複合体1(電子伝達複合体1)を阻害してATPの産生を減らし、そのためにAMP:ATP比が上昇するためにAMPKが活性化されます。つまり、メトホルミンはミトコンドリア毒であり、この毒を適量使うと血糖を低下させることができるというメカニズムです。

さて、その作用機序から、ミトコンドリアの呼吸酵素複合体をメトホルミンで阻害した状態でジクロロ酢酸でがん細胞のミトコンドリアの代謝を亢進すれば、がん細胞に比較的特異的に酸化ストレスを高めることができます。

上記のようなジクロロ酢酸とメトホルミンの相乗的な抗腫瘍効果については複数の論文報告があります。

体内で産生された乳酸は肝臓で糖新生に使われます。これをコリ回路と言います。メトホルミンは肝臓における糖新生を阻害するので、体内で乳酸蓄積を引き起こして乳酸アシドーシスの副作用が起こすリスクがあります。

がん組織では乳酸産生が亢進していますが、メトホルミンだけでは乳酸アシドーシスを引き起こすリスクを高めます。

ジクロロ酢酸は乳酸アシドーシスの治療に使われています。ミトコンドリアでの代謝を活性化して乳酸産生を抑えるためです。

したがって、がん治療の目的でメトホルミンを使用するとき、ジクロロ酢酸の併用は、抗腫瘍効果増強と副作用軽減の目的で、合理的な組合せと言えます。

 

原文:

Oncotarget. 2016 Sep 13; 7(37): 59458-59470.

Dichloroacetate and metformin synergistically suppress the growth of ovarian cancer cells

Abstract

Both dichloroacetate (DCA) and metformin (Met) have shown promising antitumor efficacy by regulating cancer cell metabolism. However, the DCA-mediated protective autophagy and Met-induced lactate accumulation limit their tumor-killing potential respectively. So overcoming the corresponding shortages will improve their therapeutic effects. In the present study, we found that DCA and Met synergistically inhibited the growth and enhanced the apoptosis of ovarian cancer cells. Interestingly, we for the first time revealed that Met sensitized DCA via dramatically attenuating DCA-induced Mcl-1 protein and protective autophagy, while DCA sensitized Met through markedly alleviating Met-induced excessive lactate accumulation and glucose consumption. The in vivo experiments in nude mice also showed that DCA and Met synergistically suppressed the growth of xenograft ovarian tumors. These results may pave a way for developing novel strategies for the treatment of ovarian cancer based on the combined use of DCA and Met.

 

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