2012年9月アーカイブ

半枝蓮はがん細胞の解糖系と酸化的リン酸化を阻害する。

f-gtc (2012年9月25日 20:12)

半枝蓮はがん細胞の解糖系と酸化的リン酸化を阻害する。


半枝蓮抽出エキスのBezielleは解糖系と酸化的リン酸化を阻害してがん細胞のミトコンドリアを選択的にターゲットにする。(Bezielle selectively targets mitochondria of cancer cells to inhibit glycolysis and OXPHOS.PLoS One 2012; 7(2):e30300. Epub 2012 Feb 3.

この論文は半枝蓮の抽出エキスをがん治療薬として開発しているBioNovo社の研究グループ(BioNovo, Inc., California, USA)からの報告です。

【要旨】

Bezielle (BZL101)は、進行した乳がんを対象にした初期の臨床試験で有効性と安全性が認められた開発中の経口薬である。Bezielleは半枝蓮(Scutellaria barbata)というハーブの水抽出エキスである。我々は以前の研究で、Bezielleはがん細胞に選択的に毒性を示し、正常細胞には毒性を示さないことを報告している。

がん組織において、Bezielleは活性酸素を発生させ、DNAにダメージを与え、ポリ-ADP-リボース合成酵素(PARP)を過剰に活性化させ、細胞内のATP(アデノシン3リン酸)とNAD(ニコチンアミドジヌクレオチド)を枯渇させ、解糖系を阻害する。

今回の研究では、がん細胞においてBezielleによって誘導される活性酸素の産生の発生源はがん細胞のミトコンドリアであることを明らかにした。

がん細胞の入った培養液にBezielleを添加すると、ミトコンドリア内でスーパーオキシドおよびペルオキシド型の活性酸素の産生が亢進する。

ミトコンドリアでの呼吸を阻害すると、活性酸素の産生は阻止され、Bezielle添加で誘導される細胞死も阻止された。解糖系のみならず、Bezielleはがん細胞の酸化的リン酸化も阻害し、その結果、ミトコンドリアにおけるATP産生量を低下させる。

ミトコンドリアの働きを欠損しているがん細胞では、Bezielleの存在下でも解糖系の活性を維持した。これは、ミトコンドリアがBezielleの第一のターゲットであることを意味している。

Bezielle が正常細胞に対して与える酸化的ダメージは低く、正常細胞に対する Bezielleの代謝的影響はほとんど認めなかった。

以上のことから、Bezielleはがん細胞のミトコンドリアを選択的にターゲットにする薬で、酸化的リン酸化と解糖系の両方を阻害する作用を持つという点において、他の医薬品には無い特徴を持っている。今回の研究結果は、Bezielleのがん細胞に対する選択的な細胞毒性の作用機序を明らかにしている。

 

【訳者注】

Bezielle (BZL101, FDA IND#59.521)というのは、現在米国で臨床試験が行われている開発中の抗がん剤ですが、その本体はハーブの半枝蓮の水溶性の抽出エキスです。乳がんや膵臓がんを対象にした臨床試験で有効性と安全性が確かめられています。副作用が少なく効果がある経口の抗がん剤という点でメリットの多い薬ですが、中国や台湾などでは、経験的にがんに有効であることが古くから知られており、民間療法や漢方治療としてがんの治療に良く使われている植物です。正常細胞に対する毒性は少なく、がん細胞に選択的に細胞毒性を示すので、その作用機序が注目されています。

この論文では、Bezielleの第一のターゲットががん細胞のミトコンドリアであり、がん細胞のミトコンドリアにおける活性酸素の発生を高めることによってがん細胞にダメージを与えることを示しています。

活性酸素によってDNAがダメージを受けると、それを修復するためにポリADPリボース合成酵素(PARPの活性が亢進します。PARPは、DNA損傷に伴い活性化され、NADを基質として様々な核タンパク質にADP一リボース残基を付加重合する翻訳後修飾反応を触媒する酵素で、DNA修復や細胞死および分化制御に関与しています。

つまり、PARPが活性化するとNADが枯渇し、解糖系が阻害されます。解糖系ではNADが必要だからです。ATPNADが枯渇することによって、がん細胞が死滅するというストーリーです。

がん細胞でミトコンドリアを活性化させ、ミトコンドリアでの活性酸素の産生を増やして酸化ストレスを増大させてがん細胞を死滅させようとするのがジクロロ酢酸ナトリウムです。

一方、高濃度ビタミンC点滴は、がん細胞に取込まれて、細胞内で過酸化水素を発生し、DNAを損傷してPARPを活性化させ、NADが枯渇して解糖系が進まなくなるという作用機序が提唱されています。

Bezielle(半枝蓮)の実験では、ミトコンドリアの活性が低下しているがん細胞では、活性酸素の発生も細胞死も起こらないことが示されています。薬でミトコンドリアの活性を低下させると、Bezielleを添加しても活性酸素の産生が起こらず細胞死も起こりません。

多くのがん細胞はもともとミトコンドリアの活性が低いという特徴があります。したがって、ジクロロ酢酸ナトリウムでミトコンドリアを活性化する治療と半枝蓮は相乗効果が期待できますさらに、DNAダメージとPARPの活性化とNADの枯渇を来す高濃度ビタミンC点滴も相乗効果が期待できます

さらに、細胞内に多く含まれる鉄と反応してフリーラジカルを発生させるアルテスネイトもがん細胞に酸化ストレスを高めることによって抗がん作用を示します。

すなわち、半枝蓮、ジクロロ酢酸ナトリウム、高濃度ビタミンC点滴、アルテスネイトの組合せが相乗的に抗がん作用を強めることが示唆されます。

最近はミトコンドリアをターゲットにしたがん治療薬の開発が注目されています。ミトコンドリアをターゲットとする抗がん剤を「Mitocans」と呼ばれています。

天然成分にもミトコンドリアが作用して抗がん作用を発揮するものが多くありますが、半枝蓮はMitocansの一つと言えます。

 

【原文】

PLoS One. 2012;7(2):e30300. Epub 2012 Feb 3.

Bezielle selectively targets mitochondria of cancer cells to inhibit glycolysis and OXPHOS.

Chen V, Staub RE, Fong S, Tagliaferri M, Cohen I, Shtivelman E.

Source

BioNovo, Inc., Emeryville, California, United States of America.

Abstract

Bezielle (BZL101) is a candidate oral drug that has shown promising efficacy and excellent safety in the early phase clinical trials for advanced breast cancer. Bezielle is an aqueous extract from the herb Scutellaria barbata. We have reported previously that Bezielle was selectively cytotoxic to cancer cells while sparing non-transformed cells. In tumor, but not in non-transformed cells, Bezielle induced generation of ROS and severe DNA damage followed by hyperactivation of PARP, depletion of the cellular ATP and NAD, and inhibition of glycolysis. We show here that tumor cells' mitochondria are the primary source of reactive oxygen species induced by Bezielle. Treatment with Bezielle induces progressively higher levels of mitochondrial superoxide as well as peroxide-type ROS. Inhibition of mitochondrial respiration prevents generation of both types of ROS and protects cells from Bezielle-induced death. In addition to glycolysis, Bezielle inhibits oxidative phosphorylation in tumor cells and depletes mitochondrial reserve capacity depriving cells of the ability to produce ATP. Tumor cells lacking functional mitochondria maintain glycolytic activity in presence of Bezielle thus supporting the hypothesis thatmitochondria are the primary target of Bezielle. The metabolic effects of Bezielle towards normal cells are not significant, in agreement with the low levels of oxidative damage that Bezielle inflicts on them. Bezielle is therefore a drug that selectively targets cancer cell mitochondria, and is distinguished from other such drugs by its ability to induce not only inhibition of OXPHOS but also of glycolysis. This study provides a better understanding of the mechanism of Bezielle's cytotoxicity, and the basis of its selectivity towards cancer cells.

カルニチン欠乏が無くても、カルニチンを補えば、脂肪酸酸化を高めることができる。

f-gtc (2012年9月19日 15:45)

カルニチン欠乏が無くても、カルニチンを補えば、脂肪酸酸化を高めることができる。

 

健常成人における長鎖脂肪酸の酸化に対するL-カルニチンのサプリメントによる補充の効果(Effects of oral L-carnitine supplementation on in vivo long-chain fatty acid oxidation in healthy adults.Metabolism 51 (11): 1389-91, 2002

【要旨】

L-カルニチンの基本的な作用機序に関する文献は多数あるが、健常な人間に正常な状態においてL-カルニチンをサプリメントとして経口投与したとき、脂肪酸の酸化に対する効果に関しては、不明な点も多い。カルニチン欠乏のある時には、L-カルニチンの補充が長鎖脂肪酸の代謝を正常化させることは良く知られている。

しかしながら、脂肪酸代謝に異常が無い健常人にL-カルニチンを投与した場合に、長鎖脂肪酸の代謝にどのような影響を及ぼすのかに関しては、検討されていない。

そこで、この研究では、L-カルニチンをサプリメントで投与(1日1gづつを3回、10日間服用)し、投与前と投与後で、同位元素(13C)で標識したパルミチン酸の酸化を測定した。その結果、L-カルニチンを投与すると、13CO2の呼気への排泄が著明に増加した。

この研究結果より、カルニチン欠乏や脂肪酸代謝異常が無い健常人においても、L-カルニチンをサプリメントで補うことによって、長鎖脂肪酸の酸化を高めることが明らかになった。

 

【訳者注】

脂肪酸のうち、炭素の数が812個の中鎖脂肪酸の場合は、消化管でグリセロールと脂肪酸に分解されたあと、中鎖脂肪酸は門脈から直接肝臓に運ばれ、すぐに肝臓のミトコンドリアで分解され、エネルギー産生に使用されます。中鎖脂肪酸はミトコンドリアに単独で入れます。

一方、炭素数が14以上の長鎖脂肪酸は、小腸で吸収されたあと、カイロミクロンとなってリンパ管へ入り、胸管から血液に入って、主に脂肪組織や筋肉組織に運ばれ、多くは貯蔵されます。エネルギーが必要になったとき、脂肪酸に分解され、ミトコンドリアに入って代謝されますが、このときL-カルニチンが必要です。つまり、L-カルニチンが無いと長鎖脂肪酸はミトコンドリアには入れないのです。

L-カルニチンは体内で合成され、肉な乳製品に豊富に含まれます。

したがって、健常な人では、体内にカルニチンが十分あるので、L-カルニチンをサプリメントで補充しても、意味が無い可能性もあります。しかし、この研究では、カルニチン欠乏の無い健常な人に対しても、L-カルニチンをサプリメントで補充すれば、長鎖脂肪酸の代謝を高めることができることが示されています。

つまり、ケトン食を実践するとき、中鎖脂肪酸だけでなく長鎖脂肪酸の摂取も増えますので、長鎖脂肪酸の代謝を促進するためにL-カルニチンをサプリメントで1日1〜3グラム程度補充する意味はあるようです。

 

【原文】

Effects of oral L-carnitine supplementation on in vivo long-chain fatty acid oxidation in healthy adults.

Müller DM, Seim H, Kiess W, Löster H, Richter T.

Source

University of Leipzig, Children's Hospital, Germany.

Abstract

Despite an abundance of literature describing the basic mechanisms of action of L-carnitine metabolism, there remains some uncertainty regarding the effects of oral L-carnitine supplementation on in vivo fatty acid oxidation in normal subjects under normal conditions. It is well known that L-carnitine normalizes the metabolism of long-chain fatty acids in cases of carnitine deficiency. However, it has not yet been shown that L-carnitine influences the metabolism of long-chain fatty acids in subjects without disturbances in fatty acid metabolism. Therefore, we investigated the effects of oral L-carnitine supplementation on in vivo long-chain fatty acid oxidation by measuring 1-[(13)C] palmitic acid oxidation in healthy subjects before and after L-carnitine supplementation (3 x 1 g/d for 10 days). We observed a significant increase in (13)CO(2) exhalation. This is the first investigation to conclusively demonstrate that oral L-carnitine supplementation results in an increase in long-chain fatty acid oxidation in vivo in subjects without L-carnitine deficiency or without prolonged fatty acid metabolism.

クルミは乳がんの発生と増殖を抑制する

f-gtc (2012年9月14日 08:11)

クルミは乳がんの発生と増殖を抑制する

Suppression of implanted MDA-MB 231 human breast cancer growth in nude mice by dietary walnut.(ヌードマウスに移植したヒト乳がん細胞MDA-MB231に対するクルミによる増殖抑制効果)Nutr Cancer 60(5): 666-74, 2008

米国ウェストバージニア州のマーシャル医科大学(Marshall University School of Medicine)の生化学・微生物学教室(Department of Biochemistry and Microbiology)からの報告です。

【要旨】
クルミにはオメガ3不飽和脂肪酸やフィトステロール、ポリフェノール、カロテノイド、メラトニンなどがん細胞の増殖を抑制する成分が多く含まれている。

ヌードマウスにヒト乳がん細胞MDA-MB231細胞の移植した動物実験モデルを用い、クルミを食餌から摂取させることによって、がん細胞の増殖に影響を及ぼすかどうかを検討する目的で実験を行った。

10%コーンオイルを添加した餌(AIN-76)で飼育しているヌードマウスにがん細胞を移植した。腫瘍が直径3〜5mmになった段階で2群に分け、1群の食餌はそのままで(コントロール群)、もう1群は粉末にしたクルミを添加し、人間で1日2オンス(56g)に相当する量を与えた(クルミ投与群)。

腫瘍の増殖速度は、コントロール群では14.6 ± 1.3 mm3/日であったのに対して、クルミ投与群では2.9 ±1.1 mm3/dayで、クルミ投与によって腫瘍の増大は顕著に抑制された。

肝臓の組織中のエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量は、コントロール群に比べてクルミ投与群で著明に増加していた。

クルミ投与によってがん細胞の増殖は抑制されたが、アポトーシスの割合には変化は認めなかった。人間での臨床試験でクルミの抗腫瘍効果を検討する価値があると思われる。

 

【訳者注】
クルミの乳がん予防効果が示されていますが、そのがん予防作用のメカニズムの一つとして、クルミにはω3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸が豊富であることが言及されています。α-リノレン酸は必須脂肪酸で、体内でエイコサペンタエン酸(EPAドコサヘキサエン酸(DHAに変換されます。EPADHAのがん予防効果も多くの研究で支持されています。この実験では、クルミを摂取した群では肝臓組織のDHAEPAが増加していることが示されているので、クルミの抗がん作用がα-リノレン酸の関与が高い可能性を示唆しています。

一般に、食事から摂取する不飽和脂肪酸のω3とω6の比が大きくなるほど、がん予防効果や抗がん作用が強くなることが知られています。多くの動物実験で、ω3不飽和脂肪酸が乳がんの発生率を低下させることが示されています。

ただ、クルミの抗がん作用には、ω3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸だけでなく、フィトステロールやポリフェノールやカロテノイドなどの相乗効果と考える方が妥当かもしれません。動物実験でクルミの抗腫瘍効果を検討した報告は多数あります。遺伝子改変の発がんマウスを使った実験でもクルミの発がん抑制効果が示されています。以下の論文は上に紹介した論文と同じ研究グループからの報告です。

 

Dietary walnut suppressed mammary gland tumorigenesis in the C(3)1 TAg mouse.(食餌からのクルミ摂取はC(3)1Tagマウスにおける乳がん発生を抑制する)Nutr Cancer. 2011;63(6):960-70.

【要旨】

クルミはω3不飽和脂肪酸や抗酸化物質やフィトステロールなどがん細胞の増殖を抑制する成分を多く含んでいる。以前の研究で移植した乳がん細胞の増殖をクルミの摂取が遅くすることが示されている。この研究では、クルミの摂取が乳がんの発生率を減らせるかどうかを検討する目的で行った。

オスのホモ接合C31 TagトランスジェニックマウスとメスのSV129マウスを交配させた。半接合のメスの子供(hemizygous)は乳離れしたあと、ランダムに2群に分け、一つの群は通常の餌(AIN-76)で飼育し、もう一群はクルミを含む餌で飼育し、乳がんの発生を検討した。
クルミを与えなかったコントロール群に比較して、クルミを与えたグループでは乳がんの発生頻度(腫瘍が一つ以上発生したマウスの割合)や腫瘍の数(マウス1匹当たりの腫瘍の数)やサイズが著明に減少した。
遺伝子発現の解析では、クルミの摂取によって、乳腺組織の増殖や分化に関連する複数の遺伝子の発現が変化した。
他の食品成分による介入試験との比較から、クルミのがん予防効果の全てをω3不飽和脂肪酸の含有だけでは説明できなかった。
この研究結果は、クルミを日頃から食べることは、乳がんを減らす健康的な食事に貢献する可能性が示唆された。

 

【訳者注】

この論文は前述の論文と同じ研究者からの報告です。前の論文では、ヌードマウスにヒト乳がん細胞を移植した実験系でクルミの抗腫瘍効果を示していますが、この実験では、乳がんを発生するように遺伝子を改変したマウス(トランスジェニックマウス)の実験モデルでクルミの乳がんの発生を予防する効果を検討しています。このトランスジェニックマウスは成長とともに乳がんを自然発症するのですが、乳離れしたあとの餌にクルミを混ぜて与えると、乳がんの発生が著明に抑制されることを示しています。つまり、小さいときから日頃からクルミを食べることは乳がんの予防に有効かもしれないということを意味しています。
動物実験で乳がんを予防しても、それが人間でも有効かどうかは人間での臨床試験の結果がでるまでは確定できませんが、循環器疾患などではクルミの予防効果が人間で証明されていますので、日頃からクルミを食べることは推奨されると思います。

クルミとフラックスシードオイル(亜麻仁油)は抗がん作用がある。

f-gtc (2012年9月 9日 20:18)

クルミとフラックスシードオイル(亜麻仁油)は抗がん作用がある。

食餌中のクルミは血管新生を抑制することによってマウスに移植した大腸がんの増殖を阻害する(Dietary walnuts inhibit colorectal cancer growth in mice by suppressing angiogenesis.Nutrition 28(1): 67-75, 2012

【要旨】

目的:動物実験において、フラックスシードオイルを補充した食餌が大腸がんの増殖を抑制することが示されている。最近の研究では、大腸がんの培養細胞を使った試験管内での実験で、クルミが大腸がん細胞に対して強い増殖抑制作用を示すことが報告されている。しかし、動物実験でのクルミの抗腫瘍効果や、フラックスシードオイルとクルミを併用した場合の効果に関しては検討されていない。この研究の目的は、動物移植腫瘍を使った実験モデルで、食餌中のクルミの大腸がんに対する抗腫瘍効果と、フラックスシードオイルの抗腫瘍効果との比較を行うことにある。

方法:ヒト大腸がん細胞HT-29細胞を6週齢のメスのネードマウスに移植し、1週間の馴化期間の後、マウス(n=48)は、総カロリーの19%程度をクルミから摂取させる群とフラックスシードオイルから摂取させる群とコーンオイル(コントロール)から摂取させる群の3つのグループにランダムに分け、25日間観察した。

結果:腫瘍の増殖速度は、コントロール群(コーンオイル摂取群)に比べて、クルミ摂取群では27%、フラックスシードオイル摂取群では43%減少した。(P < 0.05

最終的な腫瘍重量は、クルミ摂取群では33%、フラックスシードオイル摂取群では44%の減少を認め、いずれも、コントロール群との差は統計的に有意であった(P < 0.05

クルミとフラックスシードオイルの効果には統計的な差は認めなかった。代謝や内分泌系や血清抗酸化力や炎症の程度には3群間で差を認めなかった。しかしながら、クルミ摂取群とフラックスシードオイル摂取群では、血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor)を含む血管新生に関連する因子の血清中の濃度がそれぞれ30%80%低下し、腫瘍の体積は縮小したにも拘らず、壊死の部分の面積は約2倍になっていた。食餌中のクルミ添加はCD34の発現レベルで評価した血管新生をコントロール群(コーンオイル摂取群)に比べて著明に抑制したが(P = 0.017 versus control)、フラックスシードオイル摂取群の血管新生阻害のレベル(CD34発現)はコントロール群と有意差を認めなかった(P = 0.454 versus control)。

結論:食餌でクルミを与えると、血管新生を抑制することによって大腸がんの増殖が阻害される。今回の動物実験の結果を人間で確認し、その作用機序を明らかにするための研究がさらに必要と思われる。

【訳者注】

クルミはナッツの中で最もω3不飽和脂肪酸のαリノレン酸が豊富です。

フラックスシードオイル(flaxseed oil)はアマ(亜麻)の種子(亜麻仁(あまに))から採れる油で、これもω3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸が豊富です。

α-リノレン酸にはがん予防効果が報告されています。さらに、クルミやフラックスシードオイルには、抗酸化成分やがん予防成分が含まれています。

この論文では、移植腫瘍を用いた動物実験で、クルミとフラックスシードオイルががん縮小効果があることを報告しています。特に、クルミには血管新生阻害作用があることを報告しています。近年、クルミの健康作用が話題になっていますが、糖質制限と高脂肪食によるケトン食でクルミを多く摂取することは有用だと言えます。

 

原文

Nutrition. 2012 Jan;28(1):67-75. Epub 2011 Jul 27.

Dietary walnuts inhibit colorectal cancer growth in mice by suppressing angiogenesis.

Nagel JM, Brinkoetter M, Magkos F, Liu X, Chamberland JP, Shah S, Zhou J, Blackburn G, Mantzoros CS.

Source

Division of Endocrinology, Diabetes, and Metabolism, Beth Israel Deaconess Medical Center, Harvard Medical School, Boston, Massachusetts, USA.

Abstract

OBJECTIVE:

Animal studies have demonstrated that dietary supplementation with flaxseed oil inhibits colorectal cancer growth. Recent data indicate that walnuts have strong antiproliferative properties against colon cancer cells in vitro but no previous study has assessed the effects of walnuts in vivo or performed a joint evaluation of flaxseed oil and walnuts. The aim of the present study was to examine the effect of dietary walnuts on colorectal cancer in vivo and to comparatively evaluate their efficacy in relation to flaxseed oil.

METHODS:

HT-29 human colon cancer cells were injected in 6-wk-old female nude mice. After a 1-wk acclimation period, mice (n = 48) were randomized to diets containing 19% of total energy from walnuts, flaxseed oil, or corn oil (control) and were subsequently studied for 25 d.

RESULTS:

Tumor growth rate was significantly slower in walnut-fed and flaxseed-fed mice compared with corn oil-fed animals (P < 0.05) by 27% and 43%, respectively. Accordingly, final tumor weight was reduced by 33% and 44%, respectively (P < 0.05 versus control); the differences between walnut and flaxseed diets did not reach significance. We found no differences among groups in metabolic and hormonal profile, serum antioxidant capacity, or inflammation (P > 0.05). However, walnuts and flaxseed oil significantly reduced serum expression levels of angiogenesis factors, including vascular endothelial growth factor (by 30% and 80%, respectively), and approximately doubled total necrotic areas despite smaller tumor sizes (P < 0.05 versus control). Dietary walnuts significantly decreased angiogenesis (CD34 staining; P = 0.017 versus control), whereas this effect did not reach significance in the flaxseed oil group (P = 0.454 versus control).

CONCLUSION:

We conclude that walnuts in the diet inhibit colorectal cancer growth by suppressing angiogenesis. Further studies are needed to confirm our findings in humans and explore underlying mechanisms.

ケトン体が高いほど抗がん作用が強くなる

f-gtc (2012年9月 5日 07:15)

ケトン体が高いほど抗がん作用が強くなる

進行がんに対する代謝治療としてのインスリン阻害を目指す治療:10例のがん患者を対象にした安全性を妥当性を評価する予備試験Nutrition 28(10): 1028-35, 2012

米国ニューヨーク州のアルバート・アインシュタイン医科大学の放射線科のグループからの研究

【要旨】

目的:増殖の早いがんの多くは、フッ素の同位体で標識したブドウ糖(18F-fluorodeoxy glucose:フルオロデオキシブドウ糖)を使ったPETPositron Emission Tomography:陽電子放射断層撮影)検査で陽性を示す。これはがん細胞ではグルコースの取込みが亢進し嫌気性解糖系主体のエネルギー産生を行っていることによる。インスリン分泌を阻害する方法はがんの増殖を抑制することができる。

方法:進行した根治治療不可能ながん患者でPET検査で腫瘍を検出し、Eastern Cooperative Oncology Groupの基準のパフォーマンスステータス(performance status:PS)が0〜2で、諸臓器機能が正常で糖尿病が無く、最近の体重減少を認めず、BMIBody Mass Index)が20kg/m2以上の条件を満たす10例を対象にした。糖質を総カロリーの5%に制限した食事によってインスリン分泌を抑制し、栄養素摂取、体重、血清電解質、βヒドロキシ酪酸、インスリン、インスリン様増殖因子-12を測定して経過を観察した。PET検査は食事療法開始の前と終了時に実施した。

結果:10人の対象者は2628日間の糖質制限食を実施し、特に副作用を認めなかった。総カロリーの平均は治療開始前より35±6%減少し、体重は平均4%0.06.1%)減少した。食事療法開始前に腫瘍の早い進行を認めていた9例のうち5例で病状安定(stable disease)あるいは部分奏功(partial remission)をPET検査で認めた。この5例は、進行を続けた4例と比較して、3倍の食事性ケトン症(dietary ketosis)を示した。

腫瘍増殖の抑制を認めた5例と進展して4例の間には、カロリー摂取や体重減少の程度には差を認めなかった。ケトン症のレベルは血清インスリンの濃度を逆相関の関係にあった。

結論:この予備試験の結果は、インスリンの分泌を阻害する食事療法(糖質制限によるケトン食)は進行がん患者において安全に実施できる。この食事療法による抗腫瘍効果(病状安定および部分奏功)は、摂取カロリーや体重減少の程度とは関係せず、ケトン症の程度(血中ケトン体の濃度)に相関していた。標準治療の補完療法としてインスリン分泌を抑制する食事療法の有効性についてさらに大規模な臨床試験が望まれる。


【訳者注】

インスリンががん細胞の増殖を促進することは十分な根拠があります。したがって、インスリンの分泌を少なくする糖質制限食ががん細胞の増殖を抑制することも多くの動物実験や臨床試験などで示されています。

さらに、ケトン体ががん細胞の増殖を抑制する効果があり、糖質制限と高脂肪食によるケトン食が抗がん作用を示すことも最近多くの研究で明らかになっています。この報告は、進行がんの治療としてケトン食が十分に効果が期待できることを示しています。この研究で最も重要な結果は、血中のケトン体レベルが高いほど、がん細胞の増殖抑制効果が高いという点です。

摂取カロリー量や体重減少とは関連せず、ケトン体のみが奏功率と関連するということです。したがって、糖質制限と高脂肪食によるケトン食を行うとき、ケトン体を増やす工夫が最も重要だということです。

ケトン体を増やすためには、中鎖脂肪を多く摂取し、メトホルミンによって糖新生を阻害する方法は有効です。さらに、長鎖脂肪酸の吸収とβ酸化による分解を促進するために、脂肪分解酵素のリパーゼ、肝臓での長鎖脂肪酸のミトコンドリアへの運搬を促進するL-カルニチンの摂取も有効です。

このような方法を用いて、ケトン体を多く産生させると、食事だけでがんを縮小できるのです。

 

原文:

Nutrition. 2012 Oct;28(10):1028-35. Epub 2012 Jul 26.

Targeting insulin inhibition as a metabolic therapy in advanced cancer: A pilot safety and feasibility dietary trial in 10 patients.

Fine EJSegal-Isaacson CJFeinman RDHerszkopf SRomano MCTomuta NBontempo AFNegassa ASparano JA.

Source

Department of Radiology (Nuclear Medicine), Albert Einstein College of Medicine, Bronx, New York, USA.

Abstract

OBJECTIVE:

Most aggressive cancers demonstrate a positive positron emission tomographic (PET) result using (18)F-2-fluoro-2-deoxyglucose (FDG), reflecting a glycolytic phenotype. Inhibiting insulin secretion provides a method, consistent with published mechanisms, for limiting cancer growth.

METHODS:

Eligible patients with advanced incurable cancers had a positive PET result, an Eastern Cooperative Oncology Group performance status of 0 to 2, normal organ function without diabetes or recent weight loss, and a body mass index of at least 20 kg/m(2). Insulin inhibition, effected by a supervised carbohydrate dietary restriction (5% of total kilocalories), was monitored for macronutrient intake, body weight, serum electrolytes, β-hydroxybutyrate, insulin, and insulin-like growth factors-1 and -2. An FDG-PET scan was obtained at study entry and exit.

RESULTS:

Ten subjects completed 26 to 28 d of the study diet without associated unsafe adverse effects. Mean caloric intake decreased 35 ± 6% versus baseline, and weight decreased by a median of 4% (range 0.0-6.1%). In nine patients with prior rapid disease progression, five with stable disease or partial remission on PET scan after the diet exhibited a three-fold higher dietary ketosis than those with continued progressive disease (n = 4, P = 0.018). Caloric intake (P = 0.65) and weight loss (P = 0.45) did not differ in those with stable disease or partial remission versus progressive disease. Ketosis was associated inversely with serum insulin levels (P = 0.03).

CONCLUSION:

Preliminary data demonstrate that an insulin-inhibiting diet is safe and feasible in selected patients with advancedcancer. The extent of ketosis, but not calorie deficit or weight loss, correlated with stable disease or partial remission. Further study is needed to assess insulin inhibition as complementary to standard cytotoxic and endocrine therapies.

抗酸化物質+L-カルニチン+セレコキシブはがん性悪液質を改善する

f-gtc (2012年9月 2日 16:00)

抗酸化物質+L-カルニチン+セレコキシブはがん性悪液質を改善する

 

がん関連の食欲不振および悪液質を示す患者に対するカルニチン+セレコキシブ±酢酸メゲストロールの併用療法のランダム化第3相臨床試験

Clin Nutr 31(2): 176-82, 2012

【要旨】

研究の背景と目的:がん関連の食欲不振と悪液質(cancer-related anorexia/cachexia syndrome)の治療におけるカルニチン+セレコキシブ±酢酸メゲストロールの2剤併用(天然成分の抗酸化物質を含む)の効果を比較する第3相ランダム化非劣性試験を行った。主要評価項目(primary endpoint)は除脂肪体重(lean body mass)の増加と総身体活動の改善で、副次エンドポイント(secondary endpoint)は握力と6分歩行試験の評価による体力の増加で評価した。

方法60例のがん患者を第1群(L-カルニチン4g/日+セレコキシブ300mg/日)と第2群(L-カルニチン4g/日+セレコキシブ300mg/日+酢酸メゲストロール320mg/日)の2群にランダムに2つのグループに分けた。

すべての患者はポリフェノール(300mg/日)、αリポ酸(300mg/日)、カルボシステイン(2.7g/日)、ビタミンE,A,Cを組み合わせた抗酸化物質を基礎治療として投与した。治療期間は4ヶ月で、症例数は60例であった。

結果:主要および副次エンドポイントの両方において、2群の間に有意な差は認めなかった。除脂肪体重(二重エネルギーX線吸収測定法とCTで評価)と6分間歩行テストによって評価した体力は両群とも著明に増加した。副作用はきわめて軽微で無視できるレベルで両群に差は認めなかった。

結論:第1群の2剤併用(L-カルニチン+セレコキシブ)は酢酸メゲストロールを追加した第2群(L-カルニチン+セレコキシブ+酢酸メゲストロール)と比較して、効果の劣性を認めなかった(効果は同等)。

したがって、酢酸メゲストロールを追加しなくても、抗酸化物質とL-カルニチンとセレコキシブの併用による治療は、安全で安価で費用対効果の高い実施しやすい治療法として、がん性悪液質に治療に有効であることが示唆された。

 

【訳者注】

がん性悪液質は炎症性サイトカインや酸化ストレスの増大によって発生するので、抗炎症作用や抗酸化作用が有効であることが知られています。脂肪酸のミトコンドリアへの運搬に必要なL-カルニチンが、がん性悪液質状態のエネルギー産生を改善し体重を増やすことが報告されています。

シクロオキシゲナーゼ-2選択的阻害剤のセレコキシブ(celecoxib:商品名はセレブレックス、セレコックス)は抗炎症作用によって悪液質を改善することが報告されています。さらに、卵巣ホルモン製剤の酢酸メゲストロールも食欲を増進し体重を増やす効果が知られています。

この臨床試験では、抗酸化物質のサプリメントをベースにしてL-カルニチンとセレコキシブを併用した治療法に、酢酸メゲステロールを追加して効果が高まるかどうか比較しています。その結果、酢酸メゲストロールを追加しても効果に差は認めなかったということです。

酢酸メゲストロールを追加しなくても効果が同じであるので、抗酸化物質+L-カルニチン+セレコキシブで十分に効果が期待できるということになります。がん性悪液質の治療法を決める際、費用対効果の観点から参考になる研究結果だと思います。

がん性悪液質の改善にはサリドマイドやω3不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)も極めて効果が高いので、抗酸化性サプリメント(ポリフェノールやαリポ酸など)にL-カルニチン、セレコキシブ(商品名;セレコックス)、DHAEPA、サリドマイドなどを併用する治療はがん性悪液質の治療に効果が期待できると思います。

L-カルニチンはがん性悪液質を緩和する

f-gtc (2012年9月 2日 09:49)

L-カルニチンはがん性悪液質を緩和する

L-カルニチン:がんにおける多作用性の抗消耗治療に適したサプリメント

Clin Nutr. 2012 May 18. [Epub ahead of print]

【要旨】

研究の背景と目的:がんの増殖は脂肪組織と筋肉組織の減少による体重減少を引き起こす。

方法:高度の悪液質を引き起こすラットの主要のAH-130吉田腹水肝がん細胞を移植したラットにL-カルニチン(体重1kg当たり1g)を投与した。

結果:L-カルニチンの投与は、食餌摂取量と筋肉組織重量において著明な改善を示した。これらの効果により身体機能(身体活動の量、平均移動速度、総移動距離)は改善した。
L-
カルニチンの投与は、プロテアソーム(タンパク質を分解する酵素複合体)の活性と、これに関連するユビキチンとC8プロテアソーム・サブユニットとMuRF-1の遺伝子の発現量を低下させた。さらに興味深いことに、L-カルニチン投与はcaspase-3(カスパーゼ-3)のmRNAの量を減らし、アポトーシスを制御する作用が示唆された。さらに、培養した筋肉細胞に50マイクロモルのL-カルニチンを添加すると蛋白質分解速度が著明に減少したので、蛋白分解を阻害する直接作用も示唆された。

結論L-カルニチンの補充は、複数の作用機序によってがん性悪液質を改善する有効な治療法と結論できる。

原文:

Clin Nutr. 2012 May 18. [Epub ahead of print]

l-Carnitine: An adequate supplement for a multi-targeted anti-wasting therapy in cancer.

Busquets S, Serpe R, Toledo M, Betancourt A, Marmonti E, Orpí M, Pin F, Capdevila E, Madeddu C, López-Soriano FJ, Mantovani G, Macciò A, Argilés JM.

Source

Cancer Research Group, Departament de Bioquímica i Biologia Molecular, Facultat de Biologia, Universitat de Barcelona, Barcelona, Spain; Institut de Biomedicina de la Universitat de Barcelona, Barcelona, Spain.

Abstract

BACKGROUND & AIMS:

Tumour growth is associated with weight loss resulting from both adipose and muscle wasting.

METHODS:

Administration of l-carnitine (1 g/kg body weight) to rats bearing the AH-130 Yoshida ascites hepatoma, a highly cachectic rat tumour.

RESULTS:

The treatment results in a significant improvement of food intake and in muscle weight (gastrocnemius, EDL and soleus). These beneficial effects are directly related to improved physical performance (total physical activity, mean movement velocity and total travelled distance). Administration of l-carnitine decreases proteasome activity and the expression of genes related with this activity, such as ubiquitin, C8 proteasome subunit and MuRF-1. Interestingly, l-carnitine treatment also decreases caspase-3 mRNA content therefore suggesting a modulation of apoptosis. Moreover, addition of 50 μM of l-carnitine to isolated EDL muscles results in a significant decrease in the proteolytic rate suggesting a direct effect.

CONCLUSIONS:

It can be concluded that l-carnitine supplementation may be a good approach for a multi-targeted therapy for the treatment of cancer-related cachexia.

 

L-カルニチンはカルニチン・パルミトイル基転移酵素(carnitine palmityl transferase)の発現と活性を制御することによってマウスのがん性悪液質を緩和する。Cancer Biol Ther. 2011 Jul 15;12(2):125-30.

【要旨】

がん性悪液質は脂肪組織と筋肉組織の減少を伴う進行性の体重減少によって特徴づけられる。主に肝臓におけるカルニチン・パルミトイル基転移酵素IIIの活性の低下による脂肪酸酸化の障害が、がん性悪液質の発生に関与する重要な要因である。

最近の研究によってがん性悪液質の治療にL-カルニチンの投与の有効性が示されているが、その作用機序は不明である。

今回の研究では、がん性悪液質を起こしたマウスの肝臓におけるカルニチン・パルミトイル基転移酵素IIIの活性と発現に対するL-カルニチンの作用を検討することを目的とした。

マウスに大腸がん細胞のcolon-26腺がん細胞を移植すると、食餌摂取量の低下と腓腹筋の筋肉量の減少と副睾丸の脂肪量の減少によって特徴づけられるがん性悪液質が発生した。さらに、がん性悪液質マウスでは、肝臓のカルニチン・パルミトイル基転移酵素IIImRNA量と活性と血清中のフリーのカルニチンとアセチル・カルニチンの量は顕著に低下し、炎症性サイトカインの腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)とインターロイキン-6IL-6)の血清濃度は上昇した。

がん性悪液質を呈したマウスに1日に18mg/kgL-カルニチンを投与すると、食餌摂取量と腓腹筋の筋肉量と副睾丸の脂肪組織の量が増加し、血中のグルコースとアルブミン量が増加し、総コレステロール量は減少した。しかし、がん組織の増殖には影響しなかった。

がん性悪液質のマウスにL-カルニチンと投与すると、肝臓におけるカルニチン・パルミトイル基転移酵素IIImRNA量と活性が上昇し、血清TNF-αとIL-6の量が減少した。これらの結果から、L-カルニチンは、血清TNF-αとIL-6量と、肝臓におけるカルニチン・パルミトイル基転移酵素IIIの発現と活性に作用することによって、がん性悪液質を緩和することが示された。

 原文

Cancer Biol Ther. 2011 Jul 15;12(2):125-30.

L-carnitine ameliorates cancer cachexia in mice by regulating the expression and activity of carnitine palmityl transferase.

Liu S, Wu HJ, Zhang ZQ, Chen Q, Liu B, Wu JP, Zhu L.

Source

Department of Gastroenterology, Zhabei District Central Hospital, Shanghai, China. liusu2222@163.com

Abstract

Cancer cachexia is characterized by progressive weight loss with the depletion of adipose tissue and skeletal muscle. Impaired fatty acid oxidation mainly resulting from the decrease of carnitine palmitoyltransferase I and II activities in the liver is an important factor that contributes to cancer cachexia . Although recent studies suggest a potential application of L-carnitine in treatment of cancer cachexia, the underlying mechanisms are unknown. In the present study, we aim to assess the effects of L-carnitine on the activity and expression of CPT I and II in the liver of cachectic cancer mice. Our results show that the inoculation of colon-26 adenocarcinoma cells into mice led to cancer cachexia characterized by notable decreases in food intake, gastrocnemius muscle and epididymus fat weight. In addition, the mRNA level and activity of liver carnitine palmitoyltransferase (CPT) I and II, and serum levels of free carnitine and acetylcarnitine were markedly decreased in cachectic mice, accompanied by marked increases in serum levels of tumor necrosis factor-alpha (TNF-α) and interleukin-6 (IL-6). A continuous oral treatment with L-carnitine at 18 mg/kg per day increased dietary uptake, gastrocnemius muscle weight and epididymus fat weight, increased blood glucose and serum albumin levels, and decreased total cholesterol level in cancer cachectic mice, but did not affect tumor growth. These effects of L-carnitine on cancer cachexia mice were accompanied by the upregulation of mRNA level of CPT I and II and increased enzyme activity of CPT I in the liver, as well as the downregulation of serum TNF-α and IL-6 levels. Moreover, free carnitine levels were negatively correlated with serum TNF-α or IL-6 level. These results indicate that L-carnitine ameliorates cancer cachexia by regulating serum TNF-α and IL-6 levels and modulating the expression and activity of CPT in the liver.

L-カルニチンは進行膵臓がんの悪液質による体重減少を防ぐ

f-gtc (2012年9月 1日 19:13)

L-カルニチンは進行膵臓がんの悪液質による体重減少を防ぐ

進行膵臓がんにおけるL-カルニチンの補充 - ランダム化多施設臨床試験
Nutr J. 11(1):52, 2012 [Epub ahead of print]

【要旨】

研究の背景:体重が10%以上減少するがん性悪液質は膵臓がんの予後を悪くする要因の一つである。L-カルニチンの欠乏ががん性悪液質の発症に関連していることが報告されている。

結果:152例の進行膵臓がん患者をスクリーニングし、72例を対象に前向き・多施設・プラセボ対照・ランダム化二重盲検臨床試験にて、L-カルニチン(4g)投与群とプラセボ群投与群に分け、12週間の投与を行った。

この試験を開始する前に患者は平均12±2.5kgの体重減少を起こしていた。12週間の試験期間後、ボディマス指数(body-mass-index: BMI)は、L-カルニチン投与群では3.4±1.4%増加したが、コントロール群(プラセボ投与群)では1.5±1.4%の減少であった。この差は統計的に有意であった(p<0,05)。さらに、栄養状態(body cell massと体脂肪)と生活の質(QOL)の指標はL-カルニチン投与群で改善した。平均生存期間はL-カルニチン投与群が519±50日に対してコントロール群は399±43日で、L-カルニチン投与群の方が生存期間が延長する傾向を認めた(ただし統計的な有意差は認められなかった)。入院期間はL-カルニチン投与群で36±4日に対してコントロール群は41±9日で、L-カルニチン投与群の方が入院期間が短い傾向を認めた。

結論:今回の結果はまだ予備試験の段階で、より大規模な臨床試験で確かめる必要があるが、L-カルニチンのサプリメントでの補充は、進行膵臓がん患者に治療において臨床的な利益を与えることが示された。

原文:

Nutr J. 2012 Jul 23;11(1):52. [Epub ahead of print]

L-Carnitine-supplementation in advanced pancreatic cancer (CARPAN) - a randomized multicentre trial.

Kraft M, Kraft K, Gärtner S, Mayerle J, Simon P, Weber E, Schütte K, Stieler J, Koula-Jenik H, Holzhauer P, Gröber U, Engel G, Müller C, Feng YS, Aghdassi A, Nitsche C, Malfertheiner P, Patrzyk M, Kohlmann T, Lerch MM.

Abstract

BACKGROUND:

Cachexia, a >10% loss of body-weight, is one factor determining the poor prognosis of pancreatic cancer. Deficiency of L-Carnitine has been proposed to cause cancer cachexia.

FINDINGS:

We screened 152 and enrolled 72 patients suffering from advanced pancreatic cancer in a prospective, multi-centre, placebo-controlled, randomized and double-blinded trial to receive oral L-Carnitine (4g) or placebo for 12 weeks. At entry patients reported a mean weight loss of 12 +/- 2,5 (SEM) kg. During treatment body-mass-index increased by 3,4 +/- 1,4% under L-Carnitine and decreased (-1,5 +/- 1,4%) in controls (p<0,05). Moreover, nutritional status (body cell mass, body fat) and quality-of-life parameters improved under L-Carnitine. There was a trend towards an increased overall survival in the L-Carnitine group (median 519 +/- 50 d versus 399 +/- 43 d, not significant) and towards a reduced hospital-stay (36 +/- 4d versus 41 +/- 9d).

CONCLUSION:

While these data are preliminary and need confirmation they indicate that patients with pancreatic cancer may have a clinically relevant benefit from the inexpensive oral supplementation of L-Carnitine.

【訳者注】

悪液質(あくえきしつ:cachexia, カヘキシー)というのは、慢性疾患の経過中に起こる主として栄養失調に基づく病的な全身の衰弱状態で、全身衰弱、羸痩(るいそう)、浮腫、貧血による皮膚蒼白などの症状を呈します。進行がんによる悪液質の場合、がんは宿主を無視して増殖するため体に必要な栄養素を奪い取り、さらにがん細胞から分泌される物質や老廃物の蓄積、炎症細胞からのサイトカインの過剰分泌、血液循環障害など多くのメカニズムが積み重なっています。

飢餓での体重減少は貯蔵脂肪の涸渇が主ですが、悪液質では骨格筋と体脂肪の両方が失われ、体力が急速に低下します。悪液質になると、食欲不振や倦怠感などの症状が現れ、治癒力や抵抗力が低下してQOLQuality od Life, 生活の質)を悪くする原因となります。抵抗力が低下すると感染症が発生して、ますます体力がなくなり死亡の原因となります。 

悪液質の一つの基準は6ヶ月間で10%以上の体重減少ですが、進行膵臓がんの場合、80%以上の症例で悪液質が発症します。手術や抗がん剤治療が体重減少や悪液質を悪化させます。

がんの末期も死期を決める最大の要因は生体防御力や抵抗力のレベルにかかっています。がんの増殖を抑えることができなくても、がん患者の衰弱と死亡の直接的な原因である悪液質の状態を軽減できれば、延命効果が得られます 

L-カルニチンは細胞内における脂質の代謝に不可欠で、不足するとミトコンドリアでの脂肪酸の燃焼が障害されて、細胞におけるエネルギー産生が低下してしまいます。脂肪酸はL-カルニチンが結合しないとミトコンドリアの中に入ることができないからです。
体脂肪の燃焼を促進することで、ダイエットのサプリメントとして人気がありますが、細胞のエネルギー産生を高める効果があるので、様々な病気の治療にも応用されています。癌においても、抗がん剤治療による倦怠感や抑うつ気分を軽減する効果が報告されています。
L-
カルニチンはヒトの体内で合成されます。カルニチンの合成には2つの必須アミノ酸(リジン、メチオニン)、3つのビタミン(ビタミンC、ナイアシン、ビタミンB6)、還元型鉄イオンが必要で、これらの栄養素の一つでも不足すればカルニチンは不足することになります。
L-カルニチンの合成は肝臓、腎臓、脳でのみ起こります。心臓と骨格筋のように、脂肪酸の酸化によって主なエネルギーを得ている組織は、カルニチンを合成できないため、血液中のカルニチンを取り込んで利用しています。
食事性カルニチンの主な供給源は肉類と乳製品であり、穀類、果物、野菜にはほとんど含まれていません。体内で合成されますが、がんの治療で体力が消耗したり、栄要素が不足するとL-カルニチンの欠乏がおこり、細胞内でのエネルギー産生が低下します。抗がん剤治療中には、腸粘膜の障害で食事性カルニチンの吸収が低下し、肝臓や腎臓機能のダメージで体内での合成が低下し、尿中の排泄も増えることが指摘されています。
がんの代替医療では菜食主義を徹底する治療法もありますが、肉や乳製品を完全に排除する食事もカルニチンの不足を引き起こします。 
したがって、抗がん剤治療中をはじめ、がん患者が訴える倦怠感や体力低下に、体内でのL-カルニチンの不足の関与が指摘されています。カルニチンの不足は脳でのエネルギーの枯渇を引き起こし、抑うつ気分や思考力の低下の原因にもなります。

L-カルニチンが抗がん剤治療中の倦怠感や抑うつ気分を改善するという臨床報告があります。例えば、イタリアのUrbino病院の研究では、抗がん剤治療を受けた後、倦怠感を訴えた30人を対象に、L-カルニチンを1日4gを 7日間投与したところ、26人(87%)の患者で倦怠感が軽減しました。

抗がん剤のアドリアマイシンの心臓へのダメージをL-カルニチンが軽減したという報告もあります。シスプラチンによる腎臓障害を防いだり、タキソールによる神経障害を軽減する効果も報告されています。

L-カルニチンは極めて安全性が高く、ヒトにおける臨床研究においても有意な副作用はまったく報告されていません。ただし、D-カルニチンは、天然のL-カルニチンの作用を阻害し、心筋および骨格筋におけるL-カルニチン欠乏症を生じさせますので、天然型のL-カルニチンを利用することが大切です。また、カルニチンは、いかなる薬物や栄養素とも逆相互作用が認められていません。カルニチンとコエンザイムQ10とを組み合わせると、相乗的に働くことがわかっています。



参考文献
Potential role of levocarnitine supplementation for the treatment of chemotherapy-induced fatigue in non-anaemic cancer patients.
Br J Cancer.86(12):1854-1857. 2002

L-Carnitine inhibits cisplatin-induced injury of the kidney and small intestine.
Arch Biochem Biophys. 405(1):55-64.2002

L-carnitine supplementation for the treatment of fatigue and depressed mood in cancer patients with carnitine deficiency: a preliminary analysis.
Ann N Y Acad Sci. 1033:168-176. 2004


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