オメガ3不飽和脂肪酸はパクリタキセルの末梢神経障害を軽減する

f-gtc (2012年12月13日 15:37)

オメガ3不飽和脂肪酸はパクリタキセルの末梢神経障害を軽減する

Omega-3 fatty acids are protective against paclitaxel-induced peripheral neuropathy: a randomized double-blind placebo controlled trial.(オメガ-3脂肪酸はパクリタキセルによる末梢神経障害を軽減する:ランダム化二重盲検プラセボ対照試験)BMC Cancer 2012 Aug 15:12:355

【要旨】

背景:知覚性末梢神経の軸索障害(axonal sensory peripheral neuropathy)はパクリタキセルの主な用量制限性の副作用である。オメガ3系不飽和脂肪酸は神経細胞に対する保護作用と、末梢神経障害の発生に関与している炎症性サイトカインの産生を阻害する作用によって、様々な神経系疾患に対して治療効果を有している。

方法:パクリタキセルによって引き起こされる末梢神経障害に対して、オメガ3系不飽和脂肪酸に末梢神経障害の発生頻度や重症度を減らす効果があるかどうかを検討する目的で、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験を行った。

本研究の目的に合致した乳がん患者を無作為に2群に分け、パクリタキセルによる治療中および治療終了後1ヶ月間の間、1群にはオメガ3系不飽和脂肪酸(1回640mg,1日3回)を摂取させ、もう1群(コントロール群)にはプラセボを摂取させた。

抗がん剤開始前と終了後1ヶ月経過後に、患者の臨床症状と電気生理学的検査を行い、末梢神経障害の程度を簡易総合神経障害スコア(reduced Total Neuropathy Score)に基づいて評価した。

結果:オメガ3不飽和脂肪酸を摂取した30人のうち21例(70%)は神経障害の発生を認めなかった。一方、コントロール群では神経障害の発生を認めなかったのは27人中11例(40.7%)であった。この発生頻度の差は統計的に有意であった(OR = 0.3, .95% CI = (0.10-0.88), p = 0.029)

末梢神経障害の程度には統計的有意差は認めなかったが、コントロール群(プラセボ群)の方が末梢神経障害の重症度は高い傾向にあった。

結論:オメガ3系不飽和脂肪酸は、パクリタキセルによる末梢神経障害の発生を防ぐための有効な神経保護剤である可能性が示唆された。乳がんの患者は抗がん剤の助けによって無再発生存期間がより長くなっている。パクリタキセルによる神経障害を軽減する方法は、患者の生活の質(QOL)を顕著に改善する効果が期待できる。

 

(訳者注)神経細胞や筋肉細胞は細胞分裂を行わないため、抗がん剤や放射線治療を受けても、ダメージを受けにくいと思われています。しかし、パクリタキセル(商品名タキソール)やドセタキセル(商品名タキソテール)などのタキサン製剤、ビンクリスチン(商品名オンコビン)やビノレルビン(商品名ナベルビン)などのビンカアルカロイド製剤シスプラチン(商品名ランダなど)やカルボプラチン(商品名パラプラチン)やオキサリプラチン(商品名エルプラット)などの白金錯体製剤、プロテアソーム阻害剤のボルテゾミブ(商品名ベルケイド)では、高頻度に末梢神経障害による副作用(しびれや感覚障害や痛み)が発現します。この末梢神経障害の原因として、神経軸索の微小管の傷害や神経細胞の直接傷害などが関連しています。

微小管は細胞骨格を形成する蛋白質であり、チューブリンというタンパク質が集まった長い直径約25nmの管状構造をもっています。微小管は細胞内の蛋白質の輸送や細胞内小器官輸送のレールとして機能しており、細胞分裂の時の染色体の移動に必要です。つまり、細胞分裂する際に、複製されたDNAは染色体と呼ばれる構造に凝集し、細胞の両極へと引き寄せられ、等分されますが、このとく染色体を分裂した2つの細胞に分離する働きをするのが微小管です。

近年、抗がん剤の標的の一つとして微小管が注目されています。がん細胞が分裂する時に、チューブリンから微小管が形成される過程を阻害すれば、細胞分裂を防ぐことができるからです。

しかし、微小管の形成を阻害することは、細胞分裂の阻害だけでなく、神経障害の原因にもなります。神経の軸索(神経線維)は、神経細胞の細胞体から発する1本の長い突起で、他の神経細胞や筋肉に信号を伝達するケーブルのようなものです。軸索の中にある微小管は軸索の発育や物質の輸送に関連しています。神経軸索の中では、微小管は細胞体から神経軸索の先端に向かって伸びていて、微小管の上で、モータータンパク質の助けを借りて、神経軸索内でのタンパク質の輸送が行われます。

したがって、微小管をターゲットにする抗がん剤は、その副作用として神経細胞の軸索の働きを傷害し、神経の信号が正しく伝達出来なくなって、しびれや感覚障害や痛みなどの末梢神経障害の副作用を引き起こします。タキサン系抗がん剤ビンカアルカロイド系抗がん剤は微小管を標的として作用することによりがん細胞の抑えるため、神経細胞の微小管も傷害され、神経障害を引き起こします。多くの場合、指先のしびれ感にはじまり、しだいに上の方に広がっていきます。進行すると筋力低下や歩行困難なども生じます。自律神経が障害されると便秘や排尿障害が起こることもあります。またプラチナ製剤は、神経細胞に直接ダメージを与える結果、二次的に軸索障害をきたしていると考えられています。下肢やつま先のしびれに代表される感覚性の末梢神経障害が主に起こります。末梢神経障害を起こると、日常生活において、服のボタンがとめにくくなる、つまづきやすくなる、手や足の先がしびれる、温度感覚が無くなる、味覚が変わるなど様々な症状が発生してきます。強い痛みを感じる場合もあります。聴力障害や耳鳴りが起こることもあります。抗がん剤による神経障害はいったん発現すると有効な対策が少なく、不可逆的になる場合もあります。したがって、症状が強い場合には、抗がん剤治療の中断や薬剤の変更を余儀なくされます。がん患者が治療を早期に中止する最も多い理由の一つです。



パクリタキセルは乳がん、胃がん、卵巣がん、子宮体がん、非小細胞性肺がんに使われる抗がん剤で、末梢神経障害によって投与が困難になることが多い抗がん剤です。

パクリタキセルによる末梢神経障害を軽減するサプリメントとしてアセチル-L-カルニチンやαリポ酸、メラトニンなどがあります。これらにDHAEPAを加えると効果を高めることができるかもしれません。

DHA/EPAが神経障害を緩和するメカニズムとして、炎症性サイトカインの産生を抑える抗炎症作用や、神経細胞の膜に取込まれることによって神経細胞の機能や修復を促進する作用などが指摘されています。

【原文】

BMC Cancer. 2012 Aug 15;12:355.

Omega-3 fatty acids are protective against paclitaxel-induced peripheral neuropathy: a randomized double-blind placebo controlled trial.

Ghoreishi Z, Esfahani A, Djazayeri A, Djalali M, Golestan B, Ayromlou H, Hashemzade S, Asghari Jafarabadi M, Montazeri V, Keshavarz SA, Darabi M.

Source

Department of Nutrition and Biochemistry, School of Health, Tehran University of Medical Sciences, Tehran, Iran.

Abstract

BACKGROUND:

Axonal sensory peripheral neuropathy is the major dose-limiting side effect of paclitaxel.Omega-3 fatty acids have beneficial effects on neurological disorders from their effects on neurons cells and inhibition of the formation of proinflammatory cytokines involved in peripheral neuropathy.

METHODS:

This study was a randomized double blind placebo controlled trial to investigate the efficacy of omega-3 fatty acids in reducing incidence and severity of paclitaxel-induced peripheral neuropathy (PIPN). Eligible patients with breast cancer randomly assigned to take omega-3 fatty acid pearls, 640 mg t.i.d during chemotherapy with paclitaxel and one month after the end of the treatment or placebo. Clinical and electrophysiological studies were performed before the onset of chemotherapy and one month after cessation of therapy to evaluate PIPN based on "reduced Total Neuropathy Score".

RESULTS:

Twenty one patients (70%) of the group taking omega-3 fatty acid supplement (n = 30) did not develop PN while it was 40.7%( 11 patients) in the placebo group(n = 27). A significant difference was seen in PN incidence (OR = 0.3, .95% CI = (0.10-0.88), p = 0.029). There was a non-significant trend for differences of PIPN severity between the two study groups but the frequencies of PN in all scoring categories were higher in the placebo group (0.95% CI = (-2.06 -0.02), p = 0.054).

CONCLUSIONS:

Omega-3 fatty acids may be an efficient neuroprotective agent for prophylaxis against PIPN. Patients with breast cancer have a longer disease free survival rate with the aid of therapeutical agents. Finding a way to solve the disabling effects of PIPN would significantly improve the patients' quality of life.

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