メトホルミンは乳がんに対して抗がん作用を示す。

f-gtc (2012年10月31日 17:00)

メトホルミンは乳がんに対して抗がん作用を示す。

 

早期乳がんにおけるメトホルミン:好機術前補助療法の前向き試験(Metformin in early breast cancer: a prospective window of opportunity neoadjuvant study.

Breast Cancer Res Treat. 135(3):821-30. 2012

【要旨】

メトホルミンはインスリン介在性(insulin-mediated)の直接作用あるいはインスリンとは関連しない(insulin-independent)間接作用によって抗がん作用を示す。我々は、手術可能な乳がん患者を対象に、手術前の限られた期間(window of opportunity)にメトホルミンを投与する術前化学療法の効果について検討した。

新たに診断された治療をまだ受けていない、糖尿病でない乳がん患者に、確定診断のための針生検の後から手術の直前までメトホルミンを1日1500mg500mg x 3回/日)投与した。

臨床所見(体重、症状、生活の質)と血液検査(空腹時血清インスリン濃度、血糖値、インスリン抵抗性指数(homeostasis model assessment HOMA)C-反応性蛋白(CRP)、レプチン)はメトホルミン服用の前後で比較し、針生検で得たがん組織と摘出したがん組織のTUNEL染色(terminal deoxynucleotidyl transferase-mediated dUTP nick end labeling :アポトーシスを検出する染色法)とKi67スコア(増殖のマーカー)についても同様に比較した。

39名の乳がん患者がこの研究に参加した。平均年齢は51歳で、メトホルミンを服用した期間は13日〜40日で中央値は18日であった。手術前日の夜間まで服用した。

51%T1(大きさが2cm以下)で、38%でリンパ節転移を認め、85%はエストロゲン受容体あるいはプロゲステロン受容体が陽性で、13%HER2の過剰発現を認めた。

中等度の自制できる吐き気(50%)、下痢(50%)、食欲不振(41%)、腹部膨満(32%)の副作用をそれぞれ括弧内の率で認めたが、生活の質(QOL)を評価するEORTC30-QLQ function scalesでは有意な低下は認めなかった。

ボディマス指数(BMI)(-0.5 kg/m2, p < 0.0001)と体重(-1.2 kg, p < 0.0001)HOMA (-0.21, p = 0.047) は統計的有意に減少した。血中インスリン値(-4.7 pmol/L, p = 0.07)とレプチン (-1.3 ng/mL, p = 0.15) CRP (-0.2 mg/L, p = 0.35)は減少傾向を認めたが統計的な有意差は認めなかった。 がん組織におけるKi67染色スコア(細胞増殖の割合)は 36.5 から 33.5 %p = 0.016 に有意に減少し、 TUNEL 染色(アポトーシスを起こしている細胞)は0.56 から1.05 p = 0.004)に有意に増加した。手術前の短期間のメトホルミン投与は忍容性が高く、抗がん作用と一致する臨床所見とがん組織の変化を示した。生存期間のような臨床的エンドポイントを用いて適切な臨床試験を実施し、メトホルミンの抗がん作用に関する臨床的妥当性の評価が必要である。

解説:

この論文はカナダのトロント大学のマウント・サイナイ病院とプリンセス・マーガレット病院(Mount Sinai Hospital and Princess Margaret Hospital)の腫瘍血液内科部門(Division of Medical Oncology and Hematology)からの報告です。

タイトルにある「a prospective window of opportunity neoadjuvant study」の「neoadjuvant」というのは術前化学療法のことで、「prospective study」は前向き試験のことです。windowというのは、この場合は「範囲、実行可能時間枠、限られた短い時間」を言う意味で、opportunityは「機会、好機」ということで「window of opportunity」は「限られた時間での治療の機会」という意味です。つまり、「乳がんの診断が確定してから実際に手術が行われるまでの限られた機会を利用して、メトホルミンの術前化学療法としての効果を評価する前向き試験」を行ったということです。

この研究では、メトホルミンを1日1500mg(1回500mgを3回)投与しています。投与期間は中央値が18日(1340日)と比較的短期間の投与ですが、臨床症状や血液検査で、抗がん作用を示唆する結果が得られています。

メトホルミンは2型糖尿病の治療薬ですが、インスリンの分泌を促進するのではなく、細胞のインスリン感受性を高める(インスリン抵抗性を改善する)作用なので、糖尿病でなくても血糖を下げ過ぎることは無いので、1日1500mgでも問題ないようです。

メトホルミンは様々ながんの発生率を低下させることが報告され、さらに抗がん剤治療や放射線治療の効き目を高めることが報告されています。さらに、メトホルミン自体に抗がん作用が報告されています。

大規模な臨床試験などで証明されるまではまだエビデンスは高いとは言えませんが、多くの研究はメトホルミンの抗がん作用を示しています。乳がんなどの治療にもっと使ってよいように思います。

  メトホルミン抗がん作用については以下サイトで解説しています

http://www.1ginzaclinic.com/metfomin/metformin.html


【原文】 

Breast Cancer Res Treat. 2012 Oct;135(3):821-30. Epub 2012 Aug 30.

Metformin in early breast cancer: a prospective window of opportunity neoadjuvant study.

Niraula S, Dowling RJ, Ennis M, Chang MC, Done SJ, Hood N, Escallon J, Leong WL, McCready DR, Reedijk M, Stambolic V, Goodwin PJ.

Source

Division of Medical Oncology and Hematology, Department of Medicine, Mount Sinai Hospital and Princess Margaret Hospital, University of Toronto, 1284-600 University Avenue, Toronto, ON, M5G 1X5, Canada.

Abstract

Metformin may exert anti-cancer effects through indirect (insulin-mediated) or direct (insulin-independent) mechanisms. We report results of a neoadjuvant "window of opportunity" study of metformin in women with operable breast cancer. Newly diagnosed, untreated, non-diabetic breast cancer patients received metformin 500 mg tid after diagnostic core biopsy until definitive surgery. Clinical (weight, symptoms, and quality of life) and blood [fasting serum insulin, glucose, homeostasis model assessment (HOMA), C-reactive protein (CRP), and leptin] attributes were compared pre- and post-metformin as were terminal deoxynucleotidyl transferase-mediated dUTP nick end labeling (TUNEL) and Ki67 scores (our primary endpoint) in tumor tissue. Thirty-nine patients completed the study. Mean age was 51 years, and metformin was administered for a median of 18 days (range 13-40) up to the evening prior to surgery. 51 % had T1 cancers, 38 % had positive nodes, 85 % had ER and/or PgR positive tumors, and 13 % had HER2 overexpressing or amplified tumors. Mild, self-limiting nausea, diarrhea, anorexia, and abdominal bloating were present in 50, 50, 41, and 32 % of patients, respectively, but no significant decreases were seen on the EORTC30-QLQ function scales. Body mass index (BMI) (-0.5 kg/m(2), p < 0.0001), weight (-1.2 kg, p < 0.0001), and HOMA (-0.21, p = 0.047) decreased significantly while non-significant decreases were seen in insulin (-4.7 pmol/L, p = 0.07), leptin (-1.3 ng/mL, p = 0.15) and CRP (-0.2 mg/L, p = 0.35). Ki67 staining in invasive tumor tissue decreased (from 36.5 to 33.5 %, p = 0.016) and TUNEL staining increased (from 0.56 to 1.05, p = 0.004). Short-term preoperative metformin was well tolerated and resulted in clinical and cellular changes consistent with beneficial anti-cancer effects; evaluation of the clinical relevance of these findings in adequately powered clinical trials using clinical endpoints such as survival is needed.

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