ビタミンDの抗がん作用

【ビタミンD受容体はほぼ全ての組織・細胞に存在する】

ビタミンDは骨代謝や血中のカルシウム調節に重要な役割を果たしています。
骨や歯の発育や維持に重要な役割を担っており、ビタミンDが欠乏すると骨の形成異常が起こり、小児期に発症するものを「くる病」、成人期以降に発症するものを「骨軟化症」と呼んでいますが、これらは骨の石灰化がうまくいかず、骨が軟らかくなる病気です。
ビタミンDはくる病を治す栄養因子として20世紀初めに発見されました。
ビタミンDは細胞核内の受容体に結合して遺伝子発現を調節します。
食事中のカルシウムは小腸から吸収され、骨に貯蔵され、余分なものは腎臓から排泄され、副甲状腺ホルモン(骨において破骨細胞を活性化し骨芽細胞を抑制して骨吸収を促進する)によってカルシウムとリンが骨から血中に供給されます。
したがって、カルシウム代謝の調節に関するビタミンDの標的組織は、小腸、骨、腎臓、副甲状腺の四つになります。これらの組織において、ビタミンDは骨やカルシウムの代謝に関連する遺伝子の発現を制御することによって、骨形成や血液のカルシウム濃度の調節を行っています。
しかし、ビタミンDの働きは、骨とカルシウムの調節だけではなく、種々の細胞の増殖や分化やアポトーシスの制御や免疫調節作用など、多くの生体内機能に関わっていることが明らかになっています。
骨形成やカルシウム代謝の調節以外のビタミンDの役割の存在は、カルシウムやリンの代謝とは関係のない組織や臓器の細胞にビタミンD受容体が見つかったことから明らかになりました。
すなわち、ビタミンD受容体は小腸、骨、腎臓、副甲状腺の他に、皮膚、脳、筋肉、肝臓、免疫系細胞などほぼ全ての組織での発現が観察されています。
そして、多くのがん細胞においてビタミンD受容体が発現しており、ビタミンDががん細胞の増殖を抑制し分化を誘導する作用を持つことが多くの研究で証明され、がんの治療におけるビタミンDの有用性に注目が集まっています。

【ビタミンDは肝臓と腎臓で代謝されて活性型になる】

ビタミンDビタミンD2(エルゴカルシフェロール)D3(コレカルシフェロール)の総称です。
ビタミンD2は植物に含まれるエルゴステロール(プロビタミンD2)から生成され、ビタミンD3は動物の体内でコレステロールから生成されます。
ビタミンD2はキノコなどの植物性食品に含まれ、特に白キクラゲや干し椎茸に多く含まれています。ビタミンD3は魚に多く含まれています。
日光に当たれば、体内で十分な量のビタミンD3が生成されます。すなわち、日光に含まれるUV-B帯域(波長280~315 nm)の紫外線が皮膚に当たると、表皮内で7-デヒドロコレステロール(プロビタミンD3)からプレビタミンD3を経てビタミンD3(コレカルシフェロール)が生成されます。
7-デヒドロコレステロールはコレステロールから体内で生成されるので、紫外線を含んだ日光に当たることでビタミンDは体内で作られるビタミンということになります。
体内で生成されたビタミンD3と食物から摂取したビタミンD2およびD3は、肝臓で25位が水酸化されて25(OH)ビタミンD(カルシジオール:Calcidiol)に変換され、さらに腎臓などで1α位が水酸化されて活性型の1,25(OH)2-ビタミンD(カルシトリオール:Calcitriol)になります。
25(OH)ビタミンDは体内でのビタミンDの貯蔵型であり、長期間安定に血液中を循環しています。したがって、血中25(OH)ビタミンDの濃度がビタミンDの体内貯蔵量の指標として用いられます。(下図)

図:自然界のビタミンDは植物で紫外線の働きで生成されるエルゴステロール(ergosterol; プロビタミンD2)と動物の皮膚で紫外線の働きで生成される7-デヒドロコレステロール(7-dehydrocholesterol; プロビタミンD3)から合成される。ビタミンD3は肝臓で25位が水酸化されて25-ヒドロキシ・ビタミンD3(Calcidiol)になり、さらに腎臓で1α位が水酸化されて1α,25-ジヒドロキシ・ビタミンD3(Calcitriol)となって活性化される。

【ビタミンDは多様な生理活性作用を持つ】

元来ビタミン(vitamin)というのは、生命に必要なアミンの意味で、微量で生体の正常な発育や物質代謝を調節し、生体機能不可欠な有機化合物で、普通は動物体内では生合成されないもので、食物などから摂取する必要があります。
しかしビタミンDは例外で、体内で合成できます。つまり、ビタミンDは体内で生成されることから、ビタミンというよりホルモンに近いと言えます。ただ、ホルモンは生体内で生成されるものに限定されるので、ビタミンDは体内で産生されるだけでなく、食品からの摂取量も多いのでビタミンに分類されています。
欧米の報告では、体内のビタミンDの90%程度は皮膚で紫外線を浴びて生成(7-デヒドロコレステロールからプレビタミンD3を経てビタミンD3)、10%が食事から摂取と言われています
ビタミンDの主な働きはカルシウム代謝の調節です。ビタミンDは、小腸からのカルシウムの吸収を高め、腎臓からの尿への排出を抑制し、骨からの血中へのカルシウムの放出を高めることによって血中のカルシウム濃度を高める作用があります。
しかし、ビタミンDにはカルシウム代謝や骨形成における役割だけでなく、細胞の増殖や分化や死、生体防御機構、炎症、免疫、発がんなど多岐にわたる生体機能の調節に関与していることが明らかになっています
例えば、ビタミンDの不足は、くる病や骨軟化症だけでなく、自己免疫疾患、呼吸器感染症、糖尿病、高血圧、循環器疾患、神経筋肉系疾患、がんの発生と深く関連していることが明らかになっています。
ビタミンD受容体は生体防御や免疫に関わる細胞(単球、マクロファージ、抗原提示細胞、活性化T細胞など)で発現しています。これはビタミンDが生体防御や免疫に重要な働きを持つことを意味します。
がんとの関連においては、ビタミンDの多い状態(日光、食事、サプリメントなど)は多くのがんの発生を予防することが多くの疫学研究で明らかになっており、がん細胞の増殖抑制や細胞死(アポトーシス)や分化の誘導作用によってがん治療にも有用であることが明らかになっています。
ビタミンDの作用は、その前駆体物質と活性体、ビタミンDの代謝に関与する酵素、核内受容体、遺伝子のビタミンD応答配列、核内でヘテロダイマーを形成するレチノイドX受容体(RXR)Wnt/βカテニンシグナル伝達系などが関与する複雑なシステムを形成しています。
ビタミンDの作用メカニズムは、核内受容体を介するメカニズム(遺伝子発現が関与)と細胞膜に結合した受容体を介するメカニズム(遺伝子発現は非関与)の2種類に大別されます。
核内受容体を介するメカニズムは60 以上の遺伝子の発現を制御することによって発揮されます。例えば、ビタミンDによって活性化された核内のビタミンD受容体はCYP24A1, Osteocalcin, p21Waf1/Cip1, the growth arrest and DNA-damage-inducible gene, GADD45などの遺伝子の発現を誘導し、副甲状腺ホルモン(パラサイロイドホルモン)の発現を抑制します。
細胞膜に結合したビタミンD受容体にビタミンDが結合すると、フォスフォリパーゼCやプロテインカイネースC(PKC)、フォスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(PI3K)などの増殖シグナル伝達系が活性化されます。この活性化はビタミンD依存性の遺伝子発現とクロストークすることによって、がん細胞の増殖抑制や分化誘導や細胞死誘導の作用を増強します。
さらに、がん細胞で活性化している増殖シグナル伝達系であるWnt/βカテニン・シグナル伝達系に対して、ビタミンDとビタミンD受容体はβカテニンの転写活性を抑制します。(下図参照)

図:食事やサプリメントで摂取されるビタミンD、ならびに皮膚への紫外線(HV-B)照射で生成されるビタミンDは、肝臓で25(OH)ビタミンDに変換され、腎臓で活性型ビタミンDである1,25(OH)ビタミンDになる。活性型ビタミンDは、細胞膜のビタミンD受容体への結合によるシグナル伝達系の活性化と、核内受容体への結合による遺伝子発現の調節のメカニズムによって、骨形成やカルシウム代謝、炎症、免疫、発がん、細胞増殖、分化、アポトーシスなど様々な生理機能の調節に関与する。

Wnt/βカテニン・シグナル伝達系はがん細胞の増殖や生存を促進するので、ビタミンD/VDRによるβカテニンの転写活性の抑制は増殖抑制になります。
Wntシグナルは種を超えて広く保存されたシグナル伝達経路で、遺伝子発現、細胞増殖、細胞運動、細胞極性などを調節することで、発生や幹細胞の維持、発がんなどに深く関与することが知られています。特にβカテニンを介するWnt/βカテニン・シグナル伝達系は多くのがん細胞で異常を起こしており、がん治療の重要なターゲットになっています。ビタミンD/ビタミンD受容体がβカテニンの働き(転写活性など)を阻害して抗がん作用を示すことが明らかになっています。
このような複数の機序で、ビタミンDは多様な生理活性や抗がん作用を発揮しています。
活性型のビタミンD(1,25(OH)2-ビタミンD)は医薬品として使用されています。一方、通常のビタミンDはサプリメントとして市販されています。
活性型ビタミンDは血清カルシウム濃度を高めるので、使用には注意が必要です。一方、サプリメントのビタミンDは、肝臓で25(OH)ビタミンDに変換されたあと、必要に応じて腎臓で代謝されて活性型になり、その活性化は、副甲状腺ホルモンやカルシウム濃度によって厳密にコントロールされているため、安全性が高いと言えます。(血中カルシウム濃度が上がると副甲状腺ホルモンの分泌が低下して腎臓での1,25(OH)2ビタミンDの合成が低下する)

【ビタミンD受容体の構造と機能】

ビタミンD受容体(VDR)は核内受容体スーパーファミリーの一員です。
ヒトのVDRは427個のアミノ酸からなる分子量50kDaのタンパク質です。
VDRに活性型ビタミンDが結合すると、9-cisレチノイン酸が結合したレチノイドX受容体(RXR)とヘテロダイマー(ヘテロ二量体)を形成し、ビタミンD標的遺伝子のプロモーター上流に存在する特異的エンハンサー配列であるビタミンD応答配列(vitamin D response element: VDRE)に結合します。
リガンドが結合して核内受容体の構造が変化するとコアクチベーター(転写共役活性化因子)が結合できるようになり、転写を促進できるようになります。
VDRE のコ ンセンサス配列は、AGGTCAの基本配列が2つ直列に並び、モチーフ間が3bp 離れたものであると考えられており、この配列の 5′上流側にRXRが、3′下流側にVDRが結合します。(下図)

図:活性型ビタミンD3(1α,25(OH)2ビタミンD3:Calcitriol)と結合したビタミンD受容体(VDR)は9-シス-レチノイン酸に結合したレチノイドX受容体(RXR)とヘテロ二量体を形成してビタミンD標的遺伝子の上流にあるビタミンD応答配列に結合する。このヘテロ二量体に転写共役活性化因子(コアクチベーター)などの多くのタンパク質が結合して転写活性が亢進する。

ビタミンD受容体の活性化による増殖抑制には、細胞周期の G0/G1停止 とア ポトーシスが関与するとの報告が多く、細胞分化も増殖抑制に伴って誘導されると考えられています。
ビタミンDは細胞周期をストップさせるがん抑制遺伝子のp21p27タンパク質の発現を誘導します。この2つのタンパク質は細胞周期のG0/G1停止を引き起こすサイクリン依存性キナーゼ阻害因子です。
細胞周期は、サイクリン(cyclin)/サイクリン依存性キナー ゼ(cyclin dependent kinase: Cdk)やp21Cip1, p27Kip1, p57Kip2などのサイクリン依存性キナーゼの阻害因子などにより厳密に制御されています。
p21Cip1 遺伝子のプロモーター上流にビタミンD応答配列が存在し、ビタミンD受容体による直接的な遺伝子制御でp21Cip1遺伝子が発現誘導されることが明らかになっています。

【ビタミンDはがんを予防する】

ビタミンDの抗がん作用は多くの疫学研究や基礎研究(培養がん細胞や動物移植腫瘍や動物発がん実験など)で証明されています。
例えば、血中のビタミンD濃度とがん発生率の逆相関(血中ビタミンD濃度が低いとがんの発生率が高い)が複数の疫学研究で示されています。また、ビタミンDの摂取量が多い人はがんの発生率が低い、ビタミンDの体内産生量が増える夏はがんの進行度が冬よりも低いことが指摘されています。
ビタミンD受容体などビタミンDのシグナル伝達に関与する遺伝子の多型性(polymorphism)ががんの発生率に影響することが知られています。
培養がん細胞や動物移植腫瘍などの実験で、ビタミンDを高用量で投与すると、がん細胞の増殖抑制や分化誘導や細胞死誘導の作用が多く報告されています。
1941年に、北アメリカで、緯度が高いところ(北)に住む人は南の人よりもがんの発生率が高いことが報告されています。これは、日光によるビタミンDの産生量が発がんに影響する可能性を示した最初の報告です。
ビタミンDの産生が少ない状況(緯度の高いところに住んでいる、日光に当たらない生活習慣など)ががんの発生や増殖を促進することは多くの研究で示されています。
血清のビタミンDレベルと発がん率やがんの死亡率との関連はメラノーマ(悪性黒色腫)、乳がん、前立腺がん、結腸直腸がん、卵巣がん、腎臓がん、食道がん、胃がん、非ホジキンリンパ腫など多くの悪性腫瘍で示されています。
血中の25(OH)ビタミンD濃度は、食品からのビタミンDの摂取量と、体内で産生されたビタミンDの総量を反映しています。したがって、体内のビタミンDの量を評価するときには、この25(OH)ビタミンD の血中濃度が指標になります。
25(OH)ビタミンDの血中濃度とがんの発生率の関係を調査した疫学的研究では、大腸がんや乳がんなどで、血中の25(OH)ビタミンD の濃度が高いほど、がんの発生率が低下することが報告されています。
例えば、日本の国立がんセンターのがん予防・検診研究センターの研究では、日本人約38000人を対象に、あらかじめ血中25(OH)ビタミンD濃度を4段階のレベルにわけ、その後11.5年間に大腸がんになった患者グループと、ならなかった対照者グループにおいて、血中25(OH)ビタミンD濃度と大腸がんの発生率との関係を調べています。その結果、25(OH)ビタミンDが最低(22.9 ng/ml未満)のグループはそれ以上(22.9 ng/ml以上)の3つのグループに比べ、直腸がんのリスクが男性で4.6倍、女性で2.7倍高いという結果が得られています。 (Br J Cancer, 97: 446-451, 2007)
25(OH)ビタミンDの血中濃度が20ng/mlの上昇につき、直腸がんの発生リスクは59%減少し、結腸がんのリスクは22%減少という報告もあります。
前述のように、活性型の1,25(OH)ビタミンDは細胞の増殖や分化や死に関する複数の遺伝子の働きを調節する作用があり、がん細胞の増殖や転移を抑制し、アポトーシスという細胞死を誘導する作用が確かめられています。このようなビタミンDの作用ががん予防効果に関与していると推測されています。
米国のマサチューセッツ総合病院で早期(ステージIA~IIB)の肺がんの手術を受けた456人の解析では、5年間の無再発生存率が、夏に手術を受けた患者グループでは53%に対して、冬に手術を受けた患者グループでは40%でした。さらに、夏に手術を受け食事からのビタミンD摂取の多い患者の5年間無再発生存率が56%に対して、冬に手術を受け食事からのビタミンD摂取の少ない人のそれは23%でした。(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 14: 2303-2309, 2005)
大腸がんでも、夏や秋に手術を受けた患者は、冬に手術を受けた患者よりも生存率が高いという報告があります。
日照時間の長い夏や秋は体内のビタミンDの量が高くなることが知られていますので、ビタミンDにがんの再発を予防する効果もあるのではないかと期待されています。
実際に、血中の25(OH)ビタミンDの濃度が高いほど再発率や死亡率が低いことが肺がんや大腸がんや乳がんで報告されています。
例えば、304人の大腸がん患者を追跡した研究では、25(OH)ビタミンDの血中濃度が高い上位25%の人は、血中濃度が低い下位25%の人に比べて、大腸がんによる死亡率が約半分であったと報告されています。(J Clin Oncol 26:2984-2991, 2008)
しかし、これらの研究では、ビタミンDに直接的な再発予防効果があるという証拠にはなりません。ビタミンDの豊富な食事(魚やキノコ)や屋外での運動などのがん予防に有効な生活習慣の指標にすぎない可能性もあるからです。そこでビタミンDをサプリメントで補う臨床試験で確かめる必要があります。 

【ビタミンDのサプリメントは再発予防に効果が期待できる】

ビタミンDのサプリメントによるがん予防効果については研究によって結果が異なりますが、これは服用量との関連もあるようです。
カルシウム(1日1000mg)とビタミンD(1日400IU)のサプリメントを閉経後の女性に投与して平均7年間追跡した臨床試験が米国で行われています。ビタミンDは、1IU(国際単位) が0.025μg(あるいは、1μgが40 IU)、すなわち、400国際単位=10μgです。
この研究はカルシウムとビタミンDのサプリメントが閉経後女性の骨折を予防できるかどうかを調べる目的で行われましたが、ついでに大腸がんや乳がんの発生率についても解析されています。その結果、カルシウムとビタミンDをサプリメントで投与しても、大腸がんや乳がんの発生率を下げる効果は認められませんでした。(N Engl J Med, 354: 684-696, 2006, J Natl Cancer Inst,100:1581–1591,2008)
しかしこの研究に対しては、1日400IU(10μg)のビタミンD投与量が少なすぎるという批判もあります。つまり、400IUのビタミンDは骨粗しょう症の予防には有効でも、がんの予防には足りないという意見です。
血中25(OH)ビタミンD濃度と大腸がんの発生率に関する5つの疫学研究をメタ解析した報告によると、大腸がんの予防効果を期待できるビタミンDの摂取量として、1日1000~2000IU(25~50μg)が推奨されています。(Am J Prev Med, 32: 210-216, 2007)
この論文によると、血中25(OH)ビタミンDが最高(37ng/ml)のグループは、最低(6ng/ml)のグループに比べ、大腸がんのリスクは約50%低いことが示されています。また、血中25(OH)ビタミンD濃度が12ng/ml以下の人は、それを33ng/ml以上に高めることによって、大腸がんのリスクをほぼ半分に減らせることを示しています。
つまり、血中25(OH)ビタミンDの濃度が低い人は、ビタミンDを毎日1000~2000 IU摂取するか、日焼けしない程度に積極的に日光に当たることで、血中25(OH)ビタミンD濃度を高めれば大腸がんのリスクを半減できる可能性があります。
同様の結果は他にも報告されています。例えば、ビタミンD(1100IU/日)とカルシウム(1400~1500mg/日)をサプリメントで投与したランダム化二重盲験試験では、がんの発生自体を半分以下に減少させる効果が認められています。(Am J Clin Nutr. 85:1586-1591, 2007)
この論文は、米国の閉経後女性をプラセボ摂取グループ、カルシウム(1400~1500mg/日)摂取グループ、カルシウム(1400~1500mg/日)とビタミンD(1100IU/日)摂取グループの3つのグループに分けて、4年間追跡調査し、追跡2年目から3年間、大腸がんを含むなんらかのがんの発生率を比較しています。その結果、プラセボ摂取グループに比べて、がんの発生リスクは、カルシウム摂取グループで41%、カルシウムとビタミンD摂取グループで77%も低下することが報告されています。
日本人は食事から平均で7~8μg程度のビタミンDを摂取しています。この摂取量は健康維持が目的では必要量を充たしていますが、がんの発生や再発の予防を期待するには不十分です。
複数の研究結果を総合すると、1日25~50μg(1000~2000IU)のビタミンDの摂取であればがんの発生や再発予防に効果が期待できそうです。ただし、成人の場合の摂取量の上限(健康障害を起こすことのない最大摂取量)は50μg(2000IU)となっていますので、これ以上の摂取は推奨できません。ビタミンDを過剰に摂取すると、血清中のカルシウム濃度が高くなり、腎臓などへのカルシウムの沈着や、吐き気や食欲不振や便秘などの副作用が起こることがあります。また、フィンランドで行われた研究では、喫煙者では、ビタミンDの血中濃度が高い上位25%は膵臓がんの発生率が3倍になるという報告がありますので、喫煙者はビタミンDのサプリメントは逆効果かもしれません。
ただし、1日1000~2000 IUの摂取量が推奨されるのはがんの発生や治療後の再発リスクの低い場合の予防の目的の場合です。
進行がんの治療や再発リスクの高い場合は、もっと高用量の摂取が行われています。
米国では1カプセルが5000 IUや10000IUといった極めて高用量のビタミンD3のサプリメントが販売されています。
前述のように、活性型ビタミンDは血清カルシウム濃度を高めるので、使用には注意が必要ですが、一方、サプリメントのビタミンDは、肝臓で25(OH)ビタミンDに変換されたあと、必要に応じて腎臓で代謝されて活性型になり、その活性化は、副甲状腺ホルモンやカルシウム濃度によって厳密にコントロールされているため、安全性が高いと言えます。(血中カルシウム濃度が上がると副甲状腺ホルモンの分泌が低下して腎臓での1,25(OH)2ビタミンDの合成が低下する)

【ビタミンDの抗がん作用を強化する方法】

上述の多くの報告をまとめると、がんの再発予防には1日1000~2000 IU(25~50μg)、再発リスクの高い場合や進行がんの場合は1日2000~4000 IU(50~100μg)が妥当かもしれません。
特に、大腸がん、乳がん、前立腺がん、肺がん、膵臓がん、血液系腫瘍などでは、ビタミンDを積極的に摂取することは有効だと言えます。
また、がん細胞の分化誘導には、レチノイドベザフィブラートなどのPPARリガンドを一緒に投与すると効果を高めることができます。ヒストンのアセチル化を促進するケトン食アセチル-L-カルニチンL-カルニチンの併用も有効です。
また、ビタミンD受容体遺伝子の発現を亢進させる方法としてステロイドホルモンのデキサメサゾンの有効性が報告されています。以下のような報告があります。

Dexamethasone Enhances 1α,25-Dihydroxyvitamin D3 Effects by Increasing Vitamin D Receptor Transcription.(デキサメサゾンはビタミンD受容体遺伝子の転写を亢進することによって1α,25-ジヒドロキシD3の作用を増強する)J Biol Chem. 286(42): 36228–36237.2011年
【要旨】
ビタミンDの活性型であるカルシトリオール(Calcitriol)とグルココルチコイドのデキサメサゾンを併用すると、扁平上皮がん細胞に対するカルシトリオールの抗腫瘍効果が増強されることが知られている。
この研究では、デキサメサゾンによる前処置は、細胞の増殖を抑制し、ビタミンD受容体(VDR)の発現とVDRを介する遺伝子発現を亢進することによってカルシトリオールの作用を増強することを明らかにした。
アクチノマイシンDを投与するとVDR遺伝子のmRNA合成が阻害されたので、デキサメサゾンはVDR遺伝子の発現を転写レベルと制御していることが示唆された。
デキサメサゾンはVDR遺伝子の転写を時間依存性および用量依存性に亢進した。これはデキサメサゾンがVDR遺伝子の発現を直接制御していることを意味している。
グルココルチコイドの阻害剤であるRU486はデキサメサゾンで誘導されるVDR遺伝子発現を阻害した。
さらに、グルココルチコイド受容体の発現を阻害すると、デキサメサゾンによるVDRの発現が阻害された。これは、デキオサメサゾンがグルココルチコイド受容体に依存した作用機序でVDRの発現を増やすことを示している。
VDR遺伝子の転写開始部位から5.2 kb上流にグルココルチコイド応答配列が2箇所存在するので、この領域のグルココルチコイド応答性をルシフェラーゼ・リポーターアッセイ法で検討した。100ナノモルのデキサメサゾンで処理で、この遺伝子領域はグルココルチコイドに応答してルシフェラーゼの転写を促進した。
このグルココルチコイド応答配列を含む遺伝子領域を欠失させると、デキサメサゾンによるルシフェラーゼ遺伝子発現は消失した。
クロマチン免疫共沈法での検討で、デキサメサゾン投与によってこのグルココルチコイド応答配列にグルココルチコイド受容体がリクルートされる(その部位に集まってくる)ことが示された。
以上の結果から、デキサメサゾンはグルココルチコイド受容体を介してビタミンD受容体遺伝子の発現を亢進することによって、ビタミンD受容体の量を増やし、ビタミンDの作用を増強すると結論できる。


この報告では、活性型ビタミンD3のカルシトリオールを使用しています。
カルシトリオールは高カルシウム血症を引き起こすので、がん治療に使いづらい欠点がありますが、グルココルチコイドは小腸からのカルシウムの吸収を抑制し尿中の排泄を促進する作用があるので、カルシウムが高くなるリスクを減らすことができるということです。
グルココルチコイドには免疫抑制という副作用がありますが、同時に抗がん作用もあります。
進行がんでは症状の緩和にデキサメサゾンが使用されることも多いので、このような状況で、活性型ビタミンDのカルシトリオールかサプリメントのビタミンD3を摂取することは抗がん作用が期待できるかもしれません。
少なくとも、末期がんなどでデキサメサゾンなどのグルココルチコイドを服用しているときにビタミンD3のサプリメントは摂取する理論的根拠があると言えそうです。
また、ビタミンD自体がビタミンD受容体の発現を促進する可能性が報告されています。ビタミンD受容体遺伝子にはビタミンD応答配列が存在するからです。

さて、分化というのは、より成熟した方向に細胞が変化することです。
がん細胞の病理組織分類で分化度というのがあります。分化の程度によって高分化、中分化、低分化、未分化と分けます。一般的に、分化度の高いがん細胞ほど増殖が遅く、転移が少なくおとなしいがんと言えます。
低分化や未分化のがん細胞はより悪性度が高いがん細胞です。
分化を誘導するというのは、がん細胞をおとなしくする方法です。
ヒストンのアセチル化やビタミンD受容体やレチノイドX受容体やペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)などの核内受容体の活性化を利用すれば、がん細胞の分化を誘導しておとなしくできる可能性が高いと言えます。
このような分化誘導療法に、がん細胞の代謝異常(低酸素誘導因子の活性化、解糖系亢進、酸化的リン酸化の抑制)の正常化を併用する治療はがんとの共存を目指す方法として試してみる価値はあると思います。

図:ビタミンDは複数のメカニズムでがん細胞の増殖を抑制し、細胞の分化や死(アポトーシス)を誘導する。①ビタミンDは核内のビタミンD受容体(VDR)に結合し、9-シス-レチノイン酸が結合したレチノイドX受容体(RXR)とヘテロ二量体を形成して標的遺伝子のビタミンD応答配列に結合して遺伝子発現を亢進する。ビタミンDの標的遺伝子には、細胞周期を停止させるタンパク質や分化やアポトーシスを誘導する遺伝子が含まれている。②一方、細胞膜に結合しているビタミンD受容体(VDR)にビタミンDが結合すると、フォスフォリパーゼCやプロテインカイネースC(PKC)、フォスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(PI3K)などの増殖シグナル伝達系が活性化される。この活性化はビタミンD依存性の遺伝子発現とクロストークすることによって、がん細胞の増殖抑制や分化誘導や細胞死誘導の作用を増強する。③さらに、がん細胞で活性化している増殖シグナル伝達系であるWnt/βカテニン・シグナル伝達系に対して、ビタミンDとビタミンD受容体はβカテニンの転写活性を抑制する。Wnt/βカテニン・シグナル伝達系はがん細胞の増殖や生存を促進するので、ビタミンD/VDRによるβカテニンの転写活性の抑制は増殖抑制になる。このような複数の機序で、ビタミンDは抗がん作用を発揮する。

 

ビタミンD3のサプリメント:
1カプセル1000 IU/120カプセル (6500円)
米国:Pure Encapsulations社

購入ご希望の方はクリニック(info@f-gtc.or.jp)にお問い合わせください。

○ビタミンD3はがん患者の死亡率を低下させる