ピドチモド(Pidotimod)の免疫増強作用

ピドチモド(Pidotimod)は、ペプチド様構造の免疫増強剤です(右図)。自然免疫と獲得免疫の両方を活性化する効果が知られており、感染症の予防や治療に有効であることが複数の臨床試験で示されています。抗がん剤治療や放射線治療による免疫力低下を軽減し、感染症を予防し、抗腫瘍免疫(がん細胞に対する免疫細胞の攻撃 )を増強します。

Pidotimod

ピドチモドは1錠が400mgの錠剤です。1日に400mgから800mgを1〜2回に分けて空腹時に服用します。
1錠(400mg)が200円です。1日800mgで30日分が12,000円(税込)です。
ご希望の方はメール(info@f-gtc.or.jp)でお知らせ下さい。

【がん細胞に特異的な獲得免疫が始動するには自然免疫の活性化が必要】

免疫システムは病原体やがん細胞から生体を守る働きを担っています。免疫システムは自然免疫獲得免疫に分けられます。
自然免疫は先天的に備わった免疫で、微生物などに特有の分子パターンを認識して異物を攻撃します。マクロファージや好中球には細菌などの病原体に共通した情報を認識できる受容体を細胞表面に持っていて、病原体を認識して貪食します。 さらにマクロファージはナチュラルキラー細胞を活性化します。 ナチュラルキラー(natural killer)細胞(略してNK細胞)は、ターゲットの細胞を殺すのにT細胞と異なり事前に感作させておく必要が無いことから、生まれつき(natural)の細胞傷害性細胞(killer cell)という意味で名付けられました。
感作」というのは、前もって抗原に対する認識能を高めておくことで、感作させておく必要がないというのは、初めて出あった細胞でも、直ちにその異常細胞を認識して攻撃できるということです。 ナチュラルキラー細胞(NK細胞)は、MHCクラスI分子が喪失した細胞(自己性を喪失した異常な細胞)を認識して攻撃します。 NK細胞の細胞質にはパーフォリンやグランザイムといった細胞傷害性のタンパク質をもち、これらを放出してターゲットの細胞を死滅させます。 がん細胞を見つけると直ちに攻撃するため、がんに対する第一次防衛機構として、発がん過程の初期段階でのがん細胞の排除において重要な役割を果たしています。
一方、獲得免疫は,後天的に外来異物の刺激に応じて形成される免疫です。高度な抗原特異性と免疫記憶を特徴とします。 マクロファージや樹状細胞が、がん細胞からがん抗原ペプチドと呼ばれる小さな蛋白質を捕足し、その情報がヘルパーT細胞に伝えられ、その情報に従って特定のがん抗原に対する免疫応答が引き起こされるのが獲得免疫です。 T細胞は、がん抗原で活性化されて初めて細胞傷害活性を持つようになります。細胞傷害活性を持たないT細胞が抗原提示細胞から抗原ペプチド(がん抗原)を提示されて活性化してはじめてがん細胞に対して特異的な細胞傷害活性を持つ細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)となり、がん細胞を攻撃するようになります。 細胞傷害性T細胞は細胞傷害物質であるパーフォリン、 グランザイム, TNF(tumor necrosis factor)などを放出したり、ターゲット細胞のFasを刺激してアポトーシスに陥らせることでがん細胞やウイルス感染細胞を死滅させます。 細胞傷害性T細胞の一部はメモリーT細胞となって、異物に対する細胞傷害活性を持ったまま宿主内に記憶され、次に同じ異物(抗原)に暴露された場合に対応できるよう備えます。
「自然免疫」は、マクロファージや好中球などの食細胞が侵入した病原体やがん細胞を食べてしまうというシステムが基本になっています。 病原体を食べた食細胞は、TLR(トル様受容体)などのパターン認識受容体で、病原体や危険シグナルに共通するパターンを認識して活性化します。 一方、「獲得免疫」は「抗原」というターゲットに対して対応する免疫応答です。この獲得免疫は、自然免疫による病原体認識という段階を経なければ始動しないことが判っています。 その理由は、抗原特異的なT細胞が活性化するには、樹状細胞から抗原提示を受けなければならないのですが、樹状細胞は他の食細胞と同様にパターン認識受容体で病原体やがん細胞を認識して活性化する必要があるからです。

①活性化したマクロファージはナチュラルキラー細胞(NK細胞)を活性化する。②活性化されたマクロファージやNK細胞などががん細胞を攻撃してがん細胞の破壊が起こるとがん抗原が樹状細胞に取込まれる。抗原による感作の必要のないがん細胞に対する第一次防衛機構が「自然免疫」となる。④がん抗原を貪食した樹状細胞はがん抗原の情報をT細胞やB細胞に渡して活性化する。⑤がん抗原特異的な免疫応答によるがん細胞の攻撃が「獲得免疫」となる。

 

【獲得免疫の始動には樹状細胞の活性化が必要】

樹状細胞(Dendritic cell)は,細胞表面に突起構造を持っていることから名付けられ,高い運動性を有する免疫細胞の一種で,身体のあらゆる場所に存在しています。哺乳動物の免疫系では,最も強力な抗原提示細胞として機能しています。
末梢で病原体やがん細胞を食べて活性化した樹状細胞は最寄りのリンパ節に移動します。樹状細胞は取り込んだ細胞を細胞内で分解してペプチド(アミノ酸が数個つながったもの)にし、これらのペプチドはMHCという分子と結合して細胞表面に提示されます。 樹状細胞は活性化する前も「MHC+ペプチド」が提示されていますが、活性化されると、樹状の突起をめいっぱいに出して表面積を広げ、できるだけ多くの抗原を提示しようとします。 樹状細胞が提示する抗原と反応するヘルパーT細胞(CD4+)キラーT細胞(CD8+)が活性化されて、リンパ球による抗原特異的な免疫応答が活性化されます。

①腫瘍由来因子が未成熟な樹状細胞を骨髄から動員する。②末梢組織からも未熟樹状細胞が腫瘍組織に集まってくる。③死滅したがん細胞から放出されたがん抗原は未熟樹状細胞に取り込まれ、活性化されて成熟樹状細胞に分化誘導される。④成熟樹状細胞はリンパ節に移動し、MHCクラスI及びクラスIIに結合したがん抗原をTCR(T細胞受容体)を介して、CD4+T細胞(ヘルパーT細胞)とCD8+T細胞(キラーT細胞)に提示する。⑤抗原提示をうけて活性化したキラーT細胞はがん抗原特異的な免疫学的攻撃を行う。

 

【ピドチモドは樹状細胞の成熟を促進する】

ピドチモド(Pidotimod)は、2つのアミノ酸が結合したようなジペプチド様構造の生体応答調節療剤(Biological Response Modifiers)の一種です。自然免疫と獲得免疫の両方を活性化する効果が知られており、感染症の予防や治療に有効であることが複数の臨床試験で明らかになっています。
例えば、上気道感染症や尿路感染症を頻回に繰り返す小児を対象にした臨床試験で、ピドチモドは感染症の発症頻度を減少させる効果が確認されています。 ピドチモドの免疫増強効果は老化やダウン症候群やがんのような免疫低下を起こしやすい状況でより高い効果が認められています。
ピドチモドの免疫刺激作用のメカニズムとして、樹状細胞の成熟を促進し(HLA-DRと補助刺激分子の発現亢進)、樹状細胞からの炎症性サイトカインの産生を刺激してT細胞の増殖とTh1フェノタイプへの分化誘導、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)の機能亢進と貪食能の亢進などが報告されています。
ピドチモドはインターロイキン-12(IL-12)の産生を高める効果があります。IL-12は当初「NK細胞刺激因子」の名称で報告されたように、NK細胞に対する著明な活性化作用を特徴とするサイトカインです。IL-12はT細胞やNK細胞に対して細胞増殖の促進、細胞傷害活性誘導、IFN-γ産生誘導、LAK細胞誘導などの作用を示します。 このように、ピドチモドは自然免疫と獲得免疫の両方を活性化し増強します。
ピドチモドは1日400〜800mg程度を1日1〜2回に分けて服用します。
経口摂取での生体利用率(bio-availability)は42〜44%で、血中の半減期は約4時間です。体内では代謝されずにそのままの形で尿中から排泄されます。
幾つかの国(イタリア、ギリシャ、中国、ベトナム、コスタリカ、ドミニカ共和国、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコ、パナマ)で医薬品として販売されています。

①ピドチモドは未熟樹状細胞を活性化して成熟樹状細胞に分化させる。②成熟樹状細胞はリンパ節に移動し、CD4+T細胞(ヘルパーT細胞)とCD8+T細胞(キラーT細胞)に抗原提示によって活性化する。③リンパ球のTh1フェノタイプを促進してIL-12, TNF-α,インターフェロン-γ(IFN-γ) の産生を亢進し、B細胞からIgGと分泌型IgAの産生を亢進する。④一方、Th2フェノタイプを抑制して抗アレルギー作用を示す。⑤ピドチモドはNK細胞、マクロファージ、好中球など自然免疫も活性化する。⑥これらの総合作用によって感染症やがんに対する免疫力を増強する。

【ピドチモドは呼吸器感染症を予防する】

ピドチモドは呼吸器感染症を予防する効果が多くの臨床試験で証明されています。以下のような総説論文が報告されています。

Immunostimulants in respiratory diseases: focus on Pidotimod(呼吸器疾患の免疫刺激薬:ピドチモドに焦点を当てる)Multidiscip Respir Med. 2019; 14: 31. Published online 2019 Nov 4. doi: 10.1186/s40248-019-0195-2

【要旨の抜粋】
ピドチモドの有用性と免疫刺激剤としての役割は、数十年にわたって議論されてきた。しかし、まだ不明な点も多く残されている。 この論文の目的は、主に利用可能な免疫刺激剤の役割の有用な最新のレビューを提供することであり、呼吸器疾患におけるピドチモドの使用とその潜在的有用性に特に焦点を当てている。
ピドチモドは、気道感染症における抗生物質の必要性を減らすことで有用性を示している
ピドチモドは自然免疫応答と適応免疫応答の両方に影響を与える免疫調節活性を備えた免疫グロブリン(IgA、IgM、IgG)およびTリンパ球サブセット(CD3 +、CD4 +)のレベルを増加させる。
In vitro実験で、ピドチモドはTLR2(Toll Like Receptor 2)とHLA-DR分子の発現亢進、樹状細胞の成熟と炎症誘発性分子の放出の誘導、Tリンパ球の増殖とTh1表現型への分化の刺激、および食作用の増加を引き起こすことが明らかになっている。
これらの作用はすべて、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、再発性気道感染症などのいくつかの呼吸器疾患に潜在的に有用である

Pidotimod: In-depth review of current evidence(ピドチモド:現在のエビデンスの詳細なレヴュー)Lung India. 2019 Sep-Oct; 36(5): 422–433.

【要旨】
免疫刺激剤であるピドチモドは、20年以上にわたって研究されている。現在の証拠は、子供だけでなく大人のさまざまな適応症における有用性を示している。 その免疫刺激活性は、喘息の有無にかかわらず小児の再発性呼吸器感染症の管理においてしっかりと確立されている。
標準治療単独と比較して、標準治療にピドチモドを追加すると、再発が大幅に防止され、急性エピソードの重症度と期間が減少し、最終的に小児科診療所への訪問が減少し、学校での欠席が減少する。
成人では、ピドチモドは慢性気管支炎および慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性感染性増悪の予防および治療に有効である。さらに、肺炎、手食物口病、気管支拡張症、慢性特発性蕁麻疹などの適応症で評価されている。
小児(24の研究)と成人(8の研究)の集団で実施された合計32の研究から、この詳細なレビューはピドチモドの現在の証拠を議論する。さらなる調査により、ピドチモドの免疫刺激活性はさまざまな免疫疾患にまで拡大する可能性がある。