臨床試験で証明された漢方治療のエビエンス   

【エビデンスが求められている漢方治療】  

西洋医学のがん治療の現場においては、漢方治療を拒否する意見の方が多いのが実情です。その最も大きな理由は、有効性や安全性に関する科学的根拠(エビデンス)が乏しいと考えられているからです。  
エビデンスという言葉は、日本語に訳すと証拠や根拠という意味です。ある薬や治療法の有効性を証明するために動物実験や人間での臨床試験などが行われますが、エビデンスの高さは研究の内容によって異なります。  
動物を使った実験で、がんの発生を予防したり、移植したがんを縮小させても、人間での効果が証明されるまでは有効性のエビデンスレベルは低いといえます。患者さんの個人的な体験談や医者の経験談のようなものは、エビデンスのレベルでは最低に位置付けられています。  
がん患者さんの病状や症状に応じて漢方薬の処方を変えるオーダーメイドの治療を行うことが漢方治療の基本であるため、同一の薬をランダム化二重盲検試験で評価する西洋医学の基準では、漢方治療の良さを十分に評価できまないという意見があります。しかし、「使って効いた」という体験談や臨床経験だけを基盤にして有効性を主張しても、西洋医学のがん治療の現場で利用するには科学的根拠が乏しいと言わざるを得ません。やはり、客観的なデータや作用機序の裏付けが必要です。  
漢方薬の薬効に関する研究は動物実験や小規模な臨床試験が多く、エビデンスレベルの高い研究がまだ少ないのは事実です。しかし最近は、抗がん剤や放射線治療に適切な漢方薬治療を併用することによって、副作用の軽減や延命効果が得られることを示した信頼性の高い臨床試験の結果が報告されるようになりました。がん治療において漢方薬の効果を検討した臨床試験をいくつか紹介します。

【黄耆(おうぎ)の延命効果】  

進行した非小細胞性肺がんに対して白金製剤(シスプラチンなど)を使用した抗がん剤治療に黄耆(おうぎ)を含む漢方製剤を併用すると、生存率や奏功率が上昇し副作用が軽減されるというメタ解析の結果が報告されています(文献①)。  
メタ解析とは、過去に行われたランダム化比較試験の中から信頼できるものを全て選び、統計的に総合評価を行うことによって、その治療法の有効性を評価する方法です。この論文では、白金製剤を使った抗がん剤治療を受けた進行した非小細胞性肺がん患者において、抗がん剤単独のグループと、抗がん剤治療に黄耆を含む漢方薬を併用したグループに分けて比較検討された34のランダム化臨床試験(患者総数2815人)の結果をメタ解析の統計的手法で検討しています。  
このメタ解析の対象となった臨床試験では、黄耆とその他の複数の生薬を組み合わせた漢方薬(中医薬)と、黄耆から抽出したエキスを加工した注射薬が使われていますが、内服薬も注射薬も同じような有効性が示されています。例えば、抗がん剤単独の場合を1.0として、黄耆を含む漢方薬を抗がん剤治療に併用した場合の死亡数は、6ヶ月後が0.58(0.48~0.71)、12ヶ月後が0.67(0.52~0.87)、24ヶ月後が0.73(0.62~0.86)、36ヶ月後が0.85(0.77~0.94)でした。かっこ内の数字は95%信頼区間で、これが1.0を挟んでいなければ、統計的有意差があると判断されます。  
奏功率(腫瘍の縮小が認められた症例の割合)は、漢方治療を併用することによって抗がん剤治療のみの場合の1.34倍でした。さらに、漢方薬の併用によって一般全身状態の維持・改善した率が1.36倍に上昇し、重篤な骨髄障害(白血球や赤血球や血小板の減少)の発生頻度は半分以下に減少することが示されました。  
つまりこのメタ解析の結果から、抗がん剤治療に黄耆を含む漢方薬を併用することによって、2年後の死亡数が2~3割程度減少し、奏功率(腫瘍が縮小する率)やQOL(生活の質)の改善率は30%以上上昇し、高度の骨髄障害の頻度が半分以下になることが、統計的に証明されたことになります。  
黄耆(オウギ)はマメ科のキバナオウギおよびナイモウオウギの根です。黄耆の多糖類成分にはインターフェロン誘起作用やリンパ球の活性化など免疫機能増強作用が報告されていて、病気全般に対する抵抗力を高める効果があります。抗がん剤でダメージを受けた骨髄組織や肝細胞・皮膚・粘膜の修復を促進する作用も報告されています。  
日本でも、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)や補中益気湯(ほちゅうえっきとう)など黄耆を含む漢方エキス製剤が、抗がん剤の副作用を軽減し、抗腫瘍効果を高めることが多数報告されています。
抗がん剤の代謝(分解や排泄)や治療効果に対する影響や、漢方薬自体による副作用などを懸念する意見もあって、抗がん剤治療中の漢方薬の併用についてはまだ賛否両論があります。しかし、この論文の結果では、黄耆は副作用を軽減するだけでなく、延命効果や奏功率を高める効果が認められているため、抗がん剤の効き目を弱めるという心配はなさそうです
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文献①
Astragalus-based Chinese herbs and platinum-based chemotherapy for advanced non-small-cell lung cancer: meta-analysis of randomized trials. (進行した非小細胞性肺がんに対する黄耆をベースにした漢方薬と白金製剤をベースにした抗がん剤治療:ランダム化臨床試験のメタ・アナリシス)J Clin Oncol. 24(3):419-30. 2006年

【漢方治療は肝臓がんの再発を抑える】  

肝臓がんはウイルス性肝炎による慢性肝炎や肝硬変をベースに発生し、肝臓全体が前がん状態にあるため、治療後も再発しやすいのが特徴です。漢方治療を併用すると、肝臓がんの手術や抗がん剤治療後の再発を抑える効果があります。  
例えば、十全大補湯が肝臓がん手術後の再発を予防するという効果が報告されています。外科治療(切除手術あるいはラジオ波による凝固治療)を受けた48例について、十全大補湯のエキス製剤を外科治療の1ヶ月後から投与した10例と、対象群38例とに分けて比較検討されています。平均追跡期間25.8ヶ月の間に肝臓がんの再発は対象群が38例中26例(68.4%)、十全大補湯投与群が10例中4例(40%)でした。再発がみつかるまでの平均期間は、対象群が24ヶ月であったのに対して、十全大補湯投与群は49ヶ月でした。著者らは、十全大補湯に含まれる成分が、抗炎症作用や抗酸化作用を示すことによって、肝臓がんの治療後の再発を防ぐ効果があると推測しています(文献②)。
肝臓がんの抗がん剤治療に漢方治療を併用すると、患者の生存率や腫瘍の縮小率が高まるという結果も得られています。26件の臨床試験(対象患者総数2079例)のメタ解析の結果によると、肝臓がんの抗がん剤治療に漢方治療を併用すると、抗がん剤のみで治療した場合に比べて、12ヶ月後、24ヶ月後、36ヶ月後の生存率はそれぞれ1.55倍、2.15倍、2.76倍に向上し、抗がん剤治療によって腫瘍が縮小する率(率奏功率)は1.39倍に上昇するという結果が得られています(文献③)。
漢方治療は、体力や免疫力を高め、抗がん剤治療の副作用を軽減する効果が報告されています。さらに、免疫力や抗酸化力を高めることによって、肝臓がんの再発を防ぐ効果も報告されています。抗がん剤の腫瘍縮小効果を高めることも示されています。このような効果によって、生存率を良くする結果になるようです。ただし、個々の臨床試験で使用されている抗がん剤の内容と投与された漢方薬の内容が多種多様であるため、どのような治療が最善なのかは不明です。  
インターフェロンとリバビリンの治療の副作用軽減に十全大補湯が有効という報告があります。C型慢性肝炎患者にインターフェロンとリバビリンを併用した治療を行うと、溶血性貧血が起こり、リバビリン投与の減量や中止が余儀なくされる場合が多くあります。この治療に十全大補湯を併用すると、ヘモグロビンの低下が軽減しました。十全大補湯を併用しなかった患者では35例中15例(43%)で貧血によってリバビリンの減量や中止が必要でしたが、十全大補湯を併用した患者では、リバビリンを減量あるいは中止したのは32例中4例(13%)と少なくなりました(文献④)。  
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
は人参(にんじん)・黄耆(おうぎ)・蒼朮(そうじゅつ)(または白朮(びゃくじゅつ))・茯苓(ぶくりょう)・甘草(かんぞう)・当帰(とうき)・芍薬(しゃくやく)・地黄(じおう)・川芎(せんきゅう)・桂皮(けいひ)という10種類の生薬の組み合わせからなっています。消耗性疾患や手術後などの体力低下と衰弱に有効であり、特に抗がん剤治療や放射線治療によって引き起こされる骨髄抑制(貧血、白血球減少、血小板減少)を改善する効果が多くの基礎研究と臨床研究で示されています。  
肝機能を良くする生薬や炎症や発がん過程を抑制する生薬を組み合わせることによって、肝硬変による肝機能低下を改善し、治療の副作用を軽減し、肝臓がんを予防する効果を高めることができる点が、西洋医学にない漢方治療の特徴と言えます。
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文献②
Protective effect of Juzen-taiho-to on hepatocarcinogenesis is mediated through the inhibition of Kupffer cell-induced oxidative stress.(十全大補湯による肝臓発がんの抑制効果は、クッパー細胞によって引き起こされる酸化ストレスの阻害作用が関与する)Int J Cancer. 123(11):2503-11. 2008年

文献③
Chinese herbal medicine and chemotherapy in the treatment of hepatocellular carcinoma: a meta-analysis of randomized controlled trials.(肝細胞がんの治療における漢方薬と抗がん剤治療:ランダム化対照比較試験のメタ・アナリシス)Integr Cancer Ther. 4(3):219-229, 2005年

文献④
Orally administered Kampo medicine, Juzen-taiho-to, ameliorates anemia during interferon plus ribavirin therapy in patients with chronic hepatitis C.(C型慢性肝炎患者のインターフェロンとリバビリン治療中の貧血を経口投与の漢方薬の十全大補湯が軽減する)J Gastroenterol. 39: 1202-4, 2004 年

【米国で臨床試験が行われている黄芩湯(おうごんとう)
】  

米国で臨床試験が行われているがんの治験薬にPHY906という薬があります。PHY906は治験薬としての名称ですが、これは黄芩湯(おうごんとう)という漢方処方に基づいた薬です。黄芩湯は、黄芩(おうごん)・芍薬(しゃくやく)・大棗(たいそう)・甘草(かんぞう)の4種の生薬を組み合わせて作成された漢方薬で、約1800年前に著された医学書「傷寒論(しょうかんろん)」の中に記載され、細菌性腸炎などで発熱、下痢、腹痛、吐き気がある場合の治療薬として用いられてきました。

下痢や腹痛や吐き気といった症状が、抗がん剤の副作用と似ており、抗がん剤の副作用の症状緩和に効果が期待されて動物実験や臨床試験が行われて、その有効性が報告されています。膵臓がんや大腸がんや肝臓がんを対象にした臨床試験で、PHY906は抗がん剤の副作用を軽減し、抗腫瘍効果(奏功率や生存率)を高める効果が認められています(文献⑤⑥)。

その作用機序としては、抗炎症作用や抗がん剤でダメージを受けた粘膜上皮細胞の再生を促進する作用などが示唆されています。
この4つの生薬の中で、特に黄芩は強い抗炎症作用を持っています。黄芩(シソ科のコガネバナの根)に含まれるバイカレインやオーゴニンといったフラボノイドには、核内転写因子のNF-κBの活性やシクロオキシゲナーゼ-2活性を阻害する作用や抗酸化作用や抗菌作用が報告されています。
このような抗炎症作用は抗がん剤による粘膜のダメージを緩和する効果の理由と考えられます。
芍薬や甘草や大棗は、胃腸の働きを良くし食欲を高める効果や、免疫増強作用、造血作用、肝臓保護作用などが知られています。
したがって、黄芩、芍薬、大棗、甘草の4つの組合せは、抗がん剤の副作用を軽減し、さらに抗腫瘍効果を高めることができると考えられます。


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文献 ⑤
The four-herb Chinese medicine PHY906 reduces chemotherapy-induced gastrointestinal toxicity.(4種の生薬から作られる中医薬PHY906は抗がん剤による消化管障害を軽減する)Sci Transl Med. 2(45):45ra59.2010年

文献⑥
A phase I study of the chinese herbal medicine PHY906 as a modulator of irinotecan-based chemotherapy in patients with advanced colorectal cancer.(進行した結腸直腸がん患者におけるイリノテカンをベースにした抗がん剤治療の調整薬としての中医薬PHY906の第1相臨床試験)Clin Colorectal Cancer. 10(2):85-96. 2011年

【塩酸イリノテカンの下痢を軽減する半夏瀉心湯】  

日本では、黄芩(シソ科のコガネバナの根)を含む漢方処方として半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)の効果が検討されています。  
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)は半夏(はんげ)・黄芩(おうごん)・乾姜(かんきょう)・人参(にんじん)・甘草(かんぞう)・大棗(たいそう)・黄連(おうれん)の7種の生薬から構成され、下痢や吐き気・嘔吐などの治療に用いられる漢方薬です。滋養強壮作用のある人参・甘草・大棗に、抗炎症作用を持つ黄芩・黄連と消化管機能改善作用のある半夏・乾姜を組み合わせることにより、胃腸粘膜の炎症を緩和し、粘膜のダメージの回復を早めます。  
塩酸イリノテカンはDNAトポイソメラーゼを阻害して強い抗がん活性を示しますが、副作用として重篤な下痢があります。塩酸イリノテカンの活性体は肝臓でグルクロン酸が結合して不活性化されて胆汁経由で腸管に排泄されます。しかし、腸内では腸内細菌のβ-グルクロニダーゼによってグルクロン酸がはずされて活性型代謝産物が再生成され、これが腸管粘膜を損傷して下痢が引き起こされると考えられています。  
黄芩に含まれるフラボノイド配糖体のバイカリンには、β-グルクロニダーゼを阻害する活性があるため、活性型の腸管での再生成を抑え、塩酸イリノテカンの下痢を抑制する可能性が推測され、黄芩を含んでいてしかも下痢に使用される漢方薬である半夏瀉心湯が試されました。その結果、塩酸イリノテカンの投与2~3日前から半夏瀉心湯エキス剤を投与したところ、下痢の予防あるいは軽減効果があることが動物実験やヒトの臨床試験で示されました。 この際、抗腫瘍効果には影響しないことが確認されています。  
塩酸イリノテカンとシスプラチンの抗がん剤治療を受けた進行した非小細胞性肺がん患者41例を対象に、半夏瀉心湯のエキス顆粒製剤(TJ-14)の投与を受けた18例とコントロール群23例に分けて、下痢の程度を比較した臨床試験の結果が栃木がんセンターの研究グループから報告されています。下痢の頻度や期間においては、TJ-14投与群と非投与群との間に差は認められませんでしたが、グレード3と4の強い下痢の頻度はTJ-14の投与群の方が少なかったと報告されています。(文献⑦)
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文献 ⑦
Preventive effect of Kampo medicine (Hangeshashin-to) against irinotecan-induced diarrhea in advanced non-small-cell lung cancer.(進行性非小細胞性肺がん患者におけるイリノテカン誘発性下痢に対する漢方処方「半夏瀉心湯」の予防効果)Cancer Chemother Pharmacol. 51(5):403-6.2003年

【漢方治療は放射線治療後の生存率を高める】  

子宮頚がんの放射線治療に漢方治療を併用すると生存率を高め、延命効果があるという結果が報告されています。(文献⑧)  
この研究では放射線治療に漢方を併用した子宮頚がん患者174例と、同時期に同じ病院で治療を受けた子宮頚がん患者で漢方治療を併用しなかった231例(対象群)を対象に、漢方治療の併用に延命効果があるかどうかを検討しました。その結果、漢方治療を併用することによって著明な延命効果が得られることが判りました。  
両グループの子宮頚がん患者は、低線量率小線源による腔内照射と、X線による外部照射を用いた標準的放射線治療法が施行されました。これらの標準的治療に加えて、漢方治療を受けたグループではエキス顆粒製剤の漢方薬が、患者の証(体質や症状に基づいた漢方的診断)にしたがって処方されています。使用された漢方方剤は、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、八味地黄丸(はちみじおうがん)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)、柴苓湯(さいれとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、小柴胡湯(しょうさいことう)など、体力や免疫力を高める滋養強壮を主体として漢方薬や、免疫調節作用や抗炎症作用によって病気を治療する漢方薬が中心でした。漢方薬は放射線治療と同時に開始し、治療終了後も数年間服用が継続されました。  
追跡調査の結果、漢方治療を併用した方が生存率は高くなることが示されました。例えば、ステージIIIの患者の10年生存率は、対象群が28.2%に対して、漢方薬を併用した群では49.1%、ステージIVの患者の10年生存率は、対象群が11.9%に対して漢方薬併用群では36.9%でした。他の補助療法である内服の抗がん剤やクレスチンなどによる免疫療法では、延命効果は認めなかったということです。
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文献⑧
Can Kampo therapy prolong the life of cancer patients?(漢方治療はがん患者の寿命を延ばすことができるのか)J Med Invest. 55(1-2):99-105. 2008年

【放射線性食道炎を予防する芍根湯(しゃくこんとう)】  

乳がんの放射線治療による急性食道炎の予防と治療における芍根湯(しゃくこんとう)という中医薬の有効性を検討した臨床試験の結果が報告されています。抗がん剤治療と放射線治療を受けた乳がん患者を対象に、放射線治療の開始日から芍根湯(山豆根(さんずこん)10 g /日、白芍(びゃくしゃく)30g/日、玄參(げんじん)15g/日、白及(びゃくきゅう)15g/日、三七人参(さんしちにんじん)3g/日)を投与しました。その結果、グレード2以上の急性食道炎の発生率は、芍根湯投与群が33.3%に対してコントロール群が63.3%でした。食道炎の症状が持続した期間は漢方薬投与によって短縮し、食道炎の治療として抗生物質やステロイドホルモンの使用した割合も漢方薬投与群で低いという結果が得られています(文献⑨)。  
芍根湯に含まれる山豆根・白芍・玄參・白及・三七人参(田七人参ともいう)は、いずれも抗炎症作用があり、放射線による正常組織のダメージを軽減し、回復を促進する効果があります。山豆根と玄参は咽喉部の炎症や腫れや痛みを軽減する効果があり、白及と三七人参は止血作用があり、白芍は鎮痛作用があります。したがって、放射線による急性食道炎の予防や治療に効果が十分に期待できる処方と言えます。そして、その効果を臨床試験で検討すると、実際に効果があったことが確かめられたということです。

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文献⑨
Clinical observation on effect of shaogen decoction for the prevention and treatment of acute radiation esophagitis.(急性放射線性食道炎の予防と治療における芍根湯の有効性に関する臨床的観察)中国中西医結合雑誌 30(12): 1272-4, 2010

【放射線肺臓炎を予防する涼血解毒活血湯】  

放射線肺臓炎(radiation pneumonitis)とは、放射線照射によって肺組織がダメージを受けて炎症や線維化が起こって発症する非感染性の肺の炎症です。基本的には間質性肺炎の所見を示します。胸部にできたがん(肺がん、食道がん、乳がん、悪性リンパ腫など)に対して放射線照射を行った場合に、放射線治療中あるいは終了後(多くは6ヶ月以内)に発生します。  
放射線肺臓炎の予防に「涼血解毒活血湯」という漢方薬(中医薬)の有効性が臨床試験で示されています。  
この研究では放射線治療を受ける肺がん患者100例を対象に、コントロール群(放射線治療のみ)50例と、涼血解毒活血湯併用群50例の2群に分けて、前向きランダム化(無作為化)比較対照試験を行っています。放射線肺臓炎の発生頻度は、コントロール群が33.33%に対して涼血解毒活血湯併用群では13.04%であり統計的有意差が認められました(p<0.05)。血解毒活血湯は放射線肺臓炎の発生頻度を低下させ、肺のダメージや炎症の程度を少なくし、放射線肺臓炎の症状を緩和し、生活の質を良くする効果があることが示されました。  
この臨床試験で使用された涼血解毒活血湯の構成生薬と1日分の量は地黄(じおう)10g、川芎(せんきゅう)15 g,牡丹皮(ぼたんぴ)15 g,桃仁(とうにん)12 g,紅花(こうか)10 g,黄耆(おうぎ)15 g, 連翹(れんぎょう)15 gです。
中医学の用語で「涼血」と言うのは、「血分の熱邪を清除する方法」のことで「熱や炎症を抑える(抗炎症作用)」ことです。「解毒」は「体内の毒素を排出すること」、「活血」は「血液循環を良くし、血液を浄化すること」です。つまり、「涼血解毒活血湯」というのは、熱や炎症を抑え、体内の毒素(活性酸素や炎症の産物)を除去し、血液循環を良くし血液を浄化することを目的とした処方と言えます。  
放射線肺臓炎は、放射線によって発生する活性酸素によって肺の組織がダメージを受け、肺に炎症が起こっている状態です。放射線を肺に照射すると活性酸素が発生して肺の組織のダメージが生じ、TNF-アルファ、IL-1 、IL-6 などの炎症性サイトカインが上昇し、これらのサイトカインの上昇が好中球を活性化し、活性化した好中球の肺への集積、エラスターゼの放出、肺血管内皮障害、肺血管上皮障害を順に引き起こして肺障害や炎症を引き起こすと考えられています。  
このような炎症状態を抑える治療法としては副腎皮質ホルモン(ステロイドホルモン)や免疫抑制剤のようなものしかありません。しかしステロイドも免疫抑制剤も、免疫力を低下させて、肺炎などの細菌感染症を発症させる可能性を高めます。 放射線は中医学では熱毒と考えますので、熱を取り炎症を抑える治療が適していると考えます。また、活性酸素を消去する効果は放射線による組織のダメージを軽減し、血液をきれいにして血液循環を良くすることはダメージを受けた組織の回復を促進することにつながります。炎症性サイトカインの産生や好中球の活性化を抑える効果も放射線肺臓炎の治療に有効です。
地黄・川芎・牡丹皮・桃仁・紅花・黄耆・連翹という生薬は、抗炎症作用や活性酸素消去作用や血液循環を良くする作用があり、ダメージを受けた組織の修復を促進する効果があります。放射線肺臓炎の発症メカニズムの観点からも、これらの生薬の組み合わせが効く可能性は十分に納得できると思います。  
胸部の腫瘍に対する放射線治療で放射線肺臓炎のリスクが高いときには、涼血解毒活血湯に含まれているような抗炎症・解毒・活血化瘀(かっけつかお)(駆瘀血(くおけつ))のような効能を持った生薬を主体にした漢方治療を併用する価値はあると思います。
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文献⑩
Efficacy of Liangxue Jiedu Huoxue Decoction in prevention of radiation pneumonitis: a randomized controlled trial.(放射線肺臓炎の予防における涼血解毒活血湯の効果:無作為化比較対照試験)Journal of Chinese Integrative Medicine(中西医結合学報)8(7):624-628, 2010年

【開腹手術後の腸閉塞を予防する大建中湯】  

がんの手術では広範囲の腸管の切除やリンパ節の廓清が行われるため、癒着による機械的な腸閉塞や、神経のダメージによる麻痺性の腸閉塞が起こりやすいのが特徴です。このような手術後のイレウス(腸閉塞)の予防や治療に大建中湯(だいけんちゅうとう)の有効性が報告されています。
大建中湯は山椒(さんしょう)・人参(にんじん)・乾姜(かんきょう)・膠飴(こうい)より構成されます。腸蠕動が過度に亢進している場合には腸管運動を抑制し、腸がマヒしている場合には蠕動を刺激するというように、腸管運動のバランスを良くすることによってイレウスを治します。腸閉塞を繰り返すような患者が大建中湯の服用によって腸閉塞の再発が防げる効果も報告されています。  
開腹手術後に腸を早く動かして腸閉塞を予防する目的で大建中湯の予防的投与も多くの病院で行われています。術後早期からの大建中湯の服用によって食事の再開が早まるという報告もあります。開腹手術後に腸閉塞をきたした24例を対象に、大建中湯(TJ-100)を14日間1日15g投与したグループと、偽薬(プラセボ)を投与したグループに分けたランダム化比較試験がおこなわれています。大建中湯を投与されたグループはプラセボ群に比べて、腸閉塞を治療するために行われる手術の頻度が減少したという結果が報告されています。(文献⑪)
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文献⑪
The effect of the herbal medicine dai-kenchu-to on post-operative ileus.(手術後の腸閉塞に対する漢方薬大建中湯の効果)J Int Med Res. 2002 Jul-Aug;30(4):428-32.

【がん性疼痛と漢方治療】  

漢方薬には鎮痛作用をもった成分による鎮痛効果の他、抵抗力と体力を高め体調を良くする効果などによって痛みを軽減する効果があります。漢方治療(中医学)の本場の中国や台湾では、がん性疼痛の治療における漢方治療の有効性を検討した臨床試験が多数行われています。  
例えば、がん性疼痛の治療における中国伝統医学の使用に関する臨床試験の論文(英語あるいは中国語)を調査した結果が報告されています。その論文によると、1)漢方薬(中国では中医薬)は、それ単独でも西洋薬と匹敵する鎮痛効果を発揮する、2)漢方薬(中医薬)は西洋医学の鎮痛剤の副作用を緩和し効果を高める、3)西洋薬の鎮痛剤と漢方薬(中医薬)の併用は安全に行える、という結論が得られています(文献⑫)。

台湾では多くのがん患者が、西洋医学の標準治療に加えて漢方薬で治療を受けたり、伝統的な薬膳(薬草を使った食事)による治療を受けています。様々な進行がん患者2466人を対象にして、鎮痛効果を目的とした漢方薬(芍薬と甘草を1:1)と、台湾伝統の滋養強壮スープ(百合の根、蓮の実、ナツメ)を摂取したグループと、通常の病院食、コントロール群に分けて、それぞれの食事を7日間摂取し、痛みの程度を評価しています。その結果、漢方薬と薬膳を摂取したグループでは、痛みの程度が他のグループと比べて、統計的有意に低下したという結果が得られています(文献⑬)。

芍薬と甘草の2つの生薬からなる芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)は日本でも痛みの軽減効果があることが多くの研究で報告されています。さらに滋養強壮効果のある漢方薬や食事は痛みの軽減にプラスになることをこの研究は示しています。つまり、西洋医学と伝統医学(ハーブ治療)の併用は相乗効果で末期がん患者の痛みを軽減し、QOLを高める効果が期待できます。  
がんを縮小させたり痛みを取る作用は、西洋薬に比べると漢方薬は弱いと言わざるを得ません。しかし、生薬の中には鎮痛効果の高い成分を含むものもあります。がん性疼痛のコントロールにおける漢方治療の役割として、体調を良くしたり、西洋薬の副作用を緩和することも重要です。モルヒネの副作用には吐き気・嘔吐、ねむけ、便秘などがあり、これらの症状を緩和する西洋薬がありますが、漢方治療で穏やかに副作用を緩和させることも可能です。漢方的に体調を良くすることは鎮痛薬だけで緩和できない痛みを軽減することができます。  
西洋薬の鎮痛剤を主体にしながらも、漢方治療で諸臓器の働きを良くし、さらに鎮痛作用をもった生薬を利用することによって、がん性疼痛をうまくコントロールすることができます。
実際に、末期がんで漢方治療を行うと痛みが軽減することは良く経験します。臓器機能や体調を良くすることは生活の質(QOL)を高めることなります。さらに体力や抵抗力を高め、延命効果も期待できます。痛みのコントロールを含め、緩和医療に漢方治療は様々な有効性を発揮できるので、末期がんの緩和ケアに漢方治療を極めて有用です。

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文献 ⑫
Chinese herbal medicine for cancer pain.(がん性疼痛に対する中医学治療)Integr Cancer Ther. ;6(3):208-34.
 2007年 

文献 ⑬
Effectiveness of Taiwanese traditional herbal diet for pain management in terminal cancer patients.(末期がん患者の疼痛コントロールに対する台湾の伝統的薬膳の有効性)Asia Pac J Clin Nutr. 17(1):17-22.
2008年

【抗がん剤の様々な副作用に漢方薬やハーブの効果が検討されている】 

がん患者における倦怠感の緩和を目標にハーブや漢方薬の利用が検討されています。例えばメイヨークリニックのグループは、アメリカ人参ががんに関連した倦怠感を改善することをランダム化臨床試験で認めています(文献⑭)
この研究は、余命6ヶ月以上で倦怠感を1ヶ月間以上経験している282人のがん患者を対象に、各グループ69~72名の規模で8週間の投与を行った臨床試験です。その結果、プラセボ(偽薬)のグループでは倦怠感が緩和したのが10%であったのに対して、1日1000mgのアメリカ人参の摂取で25%、1日2000mgの摂取では27%の患者において倦怠感が緩和しました。また、治療に満足した人はプラセブ群が13%であったのに対して、1日2000mgのアメリカ人参を摂取したグループでは34%でした。副作用はプラセボとアメリカ人参の間に差はありませんでした。 ショウガ(生姜)は、その独特の風味から香辛料や食品として用いられていますが、世界中の伝統医療や民間療法でも利用されています。漢方薬に使う場合はショウキョウを言い、食欲増進や吐き気止め、体を温める作用などを利用して多くの漢方薬に加えられます。ショウガの吐き気止め作用に関しては多くの臨床試験が実施され、妊娠にともなう吐き気(つわり)、乗り物酔い、手術後の吐き気、抗がん剤による吐き気に対する有効性が実証されています。 抗がん剤に起因する吐き気に対するショウガの効果を、抗がん剤治療中のがん患者644例を対象に行なった多施設共同無作為化二重盲検第II/III相試験の結果が、米国ロチェスター大学がんセンターなどのグループから報告されています。吐き気スコアの変化を解析した結果、ショウガ投与群ではすべての用量において、プラセボ群より有意に吐き気の強さが軽減されていました(文献⑮)。
その他、抗がん剤による神経障害によるしびれに対する牛車腎気丸や、関節痛や筋肉痛に対する芍薬甘草湯、乳がんのホルモン療法による更年期障害に対する当帰芍薬散や桂枝茯苓丸や女神散などの改善効果が臨床試験で報告されています。 医薬品と漢方薬との相互作用を懸念する立場からは、抗がん剤治療や手術に漢方薬を併用することに反対の意見があるのは確かです。しかし、適切な漢方治療は、がん治療の副作用を軽減して生活の質(QOL)を高め、さらに治療効果を高めて生存期間を伸ばす効果があることを示すエビデンスも蓄積されてきています。

文献⑭
A pilot, multi-dose, placebo-controlled evaluation of american ginseng (panax quinquefolius) to improve cancer-related fatigue: NCCTG trial N03CA.(がん関連の倦怠感の改善に対するアメリカ人参の効果を評価するための多用量、プラセボ対照の予備試験:NCCTG試験N03CA)第43回米国臨床腫瘍学会(ASCO)2007年、抄録番号9001

文献⑮
Ginger for chemotherapy-related nausea in cancer patients: A URCC CCOP randomized, double-blind, placebo-controlled clinical trial of 644 cancer patients.(がん患者における抗がん剤関連の吐き気に対するショウガ:644例のがん患者を対象にしたランダム化二重盲検、プラセボ対照臨床試験) 第45回米国臨床腫瘍学会(ASCO), 2009年、抄録番号9511)