様々な疾患や病態に対する水素ガスの効果

【水素ガスは関節リュウマチを緩和する】 

水素ガスは様々な炎症性疾患(自己免疫疾患など)や神経変性疾患(アルツハイマー病やパーキンソン病など)、呼吸器疾患、循環器疾患、糖尿病、腎障害など多くの疾患に対して治療効果を示すことが報告されています。
例えば、水素ガスが、その抗酸化作用と抗炎症作用によって関節リュウマチの治療に有効である可能性が指摘されています。次のような論文があります。

Molecular Hydrogen: New Antioxidant and Anti-inflammatory Therapy for Rheumatoid Arthritis and Related Diseases.(分子状水素:関節リュウマチと関連疾患に対する抗酸化と抗炎症作用の新しい治療)Curr Pharm Des. 19: 6375–6381. 2013年
【要旨】
関節リュウマチは関節の進行性の破壊を引き起こす慢性炎症性疾患である。この疾患は動脈硬化のリスクが高く、心疾患の進行が死因になることも多い。
関節リュウマチの治療の目標は全身性の炎症状態を軽減し、症状の寛解だけでなく、全身の健康状態を良くすることである。 炎症性サイトカインの働きをターゲットにした最近の生物学的免疫抑制治療は関節リュウマチの治療効果を高め、予後の改善に寄与しているが、これらの治療はその作用固有の副作用を有している。 また、この病気の早期診断も困難である。
関節リュウマチの発症原因はまだ十分に解明されていないが、この病気の成り立ちに活性酸素種が重要な関与をしていることが指摘されている。 NF-κBとTNF-αのシグナル伝達系において、活性酸素種は重要な役割を果たしている。
活性酸素種には幾つかの種類があるが、このうち炎症性疾患の成立ちに重要なのがヒドロキシラジカルであり、分子状水素(H2)はこのヒドロキシラジカルを選択的に消去する。 このように、水素は患者の酸化ストレスを軽減するので、関節リュウマチの通常の治療に水素治療を併用することはメリットがあることが最近の研究で示されている。 特に、病気の早期の段階では、水素は有効な治療効果を有している。
水素の投与が炎症や酸化ストレスを軽減し、関節リュウマチの治療に有用な効果を与える可能性をこの論文では考察する。水素は関節リュウマチやこれに関連する動脈硬化の発生や進行を抑制し、関節リュウマチの治療法としての有用であることを示した。

関節リュウマチは自分の免疫細胞が自己の成分を攻撃するという自己免疫機序で発生します。
炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1、IL-6など)や活性酸素や炎症性ケミカルメディエーターなどの産生を増えて慢性炎症が起こります。そのため、これらの炎症過程を抑制することが治療に効果を発揮します。
関節の炎症部位では、好中球やマクロファージなどの炎症細胞から活性酸素が産生され、これらの活性酸素(特にヒドロキシラジカル)が組織を破壊します。
分子状水素(水素ガス)は慢性炎症において組織破壊の主要な原因であるヒドロキシラジカルを消去するので、関節リュウマチの症状の寛解に有効であると考えられています。
またヒドロキシラジカルや炎症性サイトカインは動脈硬化を促進するので、関節リュウマチの患者は心血管疾患のリスクが高くなります。つまり、日頃から水素を摂取しておくことは、関節リュウマチの症状の緩和だけでなく、動脈硬化の進行を抑制して死亡リスクを減らす効果もあるということです。
また、日頃からヒドロキシラジカルの発生を抑制し、酸化ストレスを軽減しておけば、自己免疫疾患などの慢性炎症性疾患の発症を予防できる可能性もあります。 水素ガスはヒドロキシラジカルの消去だけでなく、細胞の遺伝子発現やシグナル伝達にも影響する作用が報告されており、病気の予防や治療における可能性が高いことが指摘されています。

【水素は双極性障害と統合失調症を改善する】

双極性障害(bipolar disorder)は躁状態と鬱状態というエピソードを繰り返す精神疾患で、古い呼び名では躁鬱病(そううつびょう)と呼ばれていた疾患です。躁状態は気分の異常な高揚が続く状態であり、鬱状態は意欲や興味や精神活動が低下する状態です。双極とは「2つの極」という意味で、双極性障害というのは、躁状態と鬱状態の2つの極をもつ気分障害という意味です。
統合失調症(schizophrenia)は幻覚や妄想という症状を特徴とする精神疾患で、以前は「精神分裂病」と呼ばれていました。脳の神経ネットワークに何らかの異常を起こして、情報処理や認知機能や意欲などに異常が見られる病気です。原因は不明で、多数の発症原因が提唱されています。
このような原因不明の精神疾患に水素ガスが有効であることが報告されています。以下のような論文があります。

Molecular hydrogen: an overview of its neurobiological effects and therapeutic potential for bipolar disorder and schizophrenia. (分子状水素:その神経生物学的作用と双極性障害と統合失調症に対する治療効果に関する概要)Medical Gas Research 2013;3:11. doi:10.1186/2045-9912-3-11.
【要旨】
水素ガスは、アポトーシス抑制、抗炎症、抗酸化などの様々な作用を有する生物活性ガスであり、このような作用は多くの精神障害における神経学的進行の過程の抑制する可能性を持つ。 特に、双極性障害と統合失調症は神経組織の酸化ストレスや炎症反応の亢進と関連している。 さらに、双極性障害の治療に使われるリチウムは酸化ストレスやアポトーシス経路に対して作用を示し、統合失調症の治療に使われるバルプロ酸塩(valproate)やその他の非定型的な抗精神病薬も同様の作用を示す。
分子状水素は、低酸素症や神経変性疾患を含むいくつかの病気の実験動物モデルを使って、その効果が研究されており、パーキンソン病などの神経疾患において興味深い臨床研究の結果が得られている。 そのため、水素分子の投与は、酸化障害や炎症やアポトーシスの調節不全によって特徴付けられる双極性障害や統合失調症やその他の神経・精神障害のための新規治療法としての可能性を有するものと推測できる。

この論文の本文部分の日本語訳を抜粋して以下に記載します。

多くの病気の発症に酸化傷害が関与しています。 細胞が酸素を使ってミトコンドリアでエネルギーを産生すれば活性酸素が発生し、なんらかの原因で炎症が起これば、炎症細胞などから活性酸素が産生されます。
このように産生された活性酸素は、タンパク質やDNAや脂質に傷害を与え、その結果、病気が発症します。 神経変性性疾患や精神病の発症や進展にも酸化ストレスや酸化傷害は重要な関与をしています
双極性障害(Bipolar disorder)は推定有病率が1%〜2%の比較的一般的な神経精神障害です。 この疾患は、糖尿病やメタボリック症候群、心血管疾患、肥満を合併する率が高く、これらの疾患の発症には炎症性変化や酸化ストレスが関連しています。 つまり、双極性障害は、炎症反応が原因で発症する全身病の一つの症候であるかもしれないという新たな仮説を提唱することができます。
統合失調症(Schizophrenia)も糖尿病や肥満・過体重や心血管疾患の合併が多いという特徴があります。 つまり、双極性障害や統合失調症の発症に炎症反応や酸化ストレスが関与している可能性が示唆され、したがって、抗炎症作用や抗酸化作用を有する治療が有効である可能性が示唆されています。

●ミトコンドリアと双極性気分障害
ミトコンドリアは細胞のエネルギー産生とシナプスのシグナル伝達に重要な役割を担っています。 ミトコンドリアの機能異常が双極性障害の発症に関与しているという研究結果があります。例えば、ミトコンドリア細胞症(mitochondrial cytopathies)の患者には双極性障害の発生頻度が高いという報告があります。
双極性障害の患者のミトコンドリアの呼吸酵素の活性低下やミトコンドリアDNAの異常や形態学的異常も報告されています。 つまり、双極性障害の発症の分子メカニズムとしてミトコンドリアの異常の関与が指摘され、この病気の治療法の開発においてミトコンドリアをターゲットにした研究が注目されています。

●双極性障害と酸化ストレス:
細胞内において酸素呼吸をするかぎり、たえず活性酸素が発生していますが、この活性酸素の害を防ぐメカニズムが細胞内にあって、酸化ストレスが亢進しないように制御されています。 すなわち、細胞内には、活性酸素を消去する物質や酵素が備わっています。
双極性障害や統合失調症や自閉症などの精神障害の発症に酸化ストレスの関与を示唆する研究結果が多く得られています。 例えば、総グルタチオン量や還元型グルタチオンの量のような内因性の抗酸化物質のレベルや、抗酸化酵素(スーパーオキシド・ディスムターゼやカタラーゼなど)の活性が双極性障害では低下していることが報告されています。 双極性障害における妄想のような精神病症状の発生に一酸化窒素(NO)が関与していることが報告されています。そして、双極性障害の患者では一酸化窒素のレベルが高いことが報告されています。
フリーラジカルと脂質の反応によって産生される過酸化脂質の代謝産物のレベルが双極性障害の躁状態や寛解の時期に上昇するという報告があります。これは、双極性障害の過程で細胞膜の脂質の過酸化が進行し、これが症状と関連している可能性を示唆しています。

●確立された治療法のメカニズム:
リチウムは、おそらく双極性気分障害の長期の再発予防のための最も有効な薬剤です。 リチウムの作用はモノアミン受容体に対する作用以外に、リチウムの慢性投与が、脳の前頭前野におけるミトコンドリアタンパク質のリン酸化を引き起こすことがラットの実験で示されています。
リチウムには抗炎症作用や抗酸化作用も有しており、このような作用が神経細胞の保護作用を示す可能性があります。 リチウムは細胞のミトコンドリアの活性、特に呼吸酵素複合体1の活性を高める効果が報告されており、この作用が治療効果と関連している可能性が示唆されています。
リチウムはミトコンドリアのエネルギー産生を高める作用があり、長期間のリチウムの投与は双極性障害の抗酸化力を高めることが報告されています。
グルタチオンの合成を高めるN-アセチル-システインが双極性障害のうつ状態や躁状態の症状を軽減する効果があることが報告されています。 しかし、リチウムの長期投与は、副作用や有効性の限界があるため、理想的な治療とは言えず、より新規のアプローチが必要です。

●ミトコンドリアと統合失調症:
統合失調症におけるミトコンドリアの異常に関しては多くの研究結果が報告されています。 さらに、精神病とミトコンドリアの異常はしばしば一緒に認められています。 統合失調症の発症にミトコンドリアDNAの関与が指摘されており、健常人に比べて、統合失調症の患者では、ミトコンドリアの数が減少していることが報告されています。 自閉症ではミトコンドリアでのエネルギー産生が障害されていることが報告されています。

●統合失調症と酸化ストレス:
統合失調症の発症メカニズムにおける酸化ストレスの関与が示唆されており、酸化ストレスはこの病気の治療のターゲットとして重要です。 統合失調症では抗酸化システムに異常があることが指摘されています。 例えば、健常人と比較した、統合失調症の患者ではスーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD)やグルタチオン・ペルオキシダーゼのような抗酸化酵素の活性が低下し、脂質の過酸化のレベルが上昇していることが報告されています。
統合失調症ではミトコンドリアにおける呼吸酵素複合体1の異常など細胞呼吸の失調が知られています。 さらに、統合失調症の症状の重い患者はスーパーオキシド・ジスムターゼの活性が低下していることや、脂質過酸化のレベルが高いほど治療抵抗性になることが報告されています。

●抗精神病薬の作用機序:
統合失調症における血漿脂質過酸化の増加は、第二世代の抗精神病薬によるものではありません。 しかし、定型および非定型抗精神病薬は、統合失調症における異常なフリーラジカルの代謝を部分的に正常化する作用を持っています。 これらの抗精神病薬による長期的な治療は、統合失調症における抗酸化酵素と脂質過酸化に影響を与えることが報告されています。
ビタミンCの投与は、統合失調症における酸化ストレスを減少させます。抗酸化作用のあるN-アセチルシステインの投与は、統合失調症の中核症状とアカシジア(錐体外路症状による静座不能の症状)を抑制します。これらのことは、統合失調症の症状の発症に酸化ストレスや酸化傷害の機序が関与していることを示唆しています。

●水素の薬物動態:
水素分子は無味無臭のガスで、脂質膜を通って速やかに拡散し、細胞内に入り、ミトコンドリアや核といった細胞内小器官に容易に達することができます。水素ガスは室温および触媒の不存在下では不活性の気体です。
水素は容易に血液脳関門を通過し、神経組織の細胞に到達します。細胞毒性などの有害作用はなく、生理的には、腸内細菌が複合糖質の発酵によって体内でも産生されています。
そのため、動脈血には水素が含まれており、この水素を細胞が利用していることを示唆しています。 水素はフリーのヒドロキシラジカルとは反応するが、その他の活性酸素とは反応しません。ヒドロキシラジカル以外のフリーラジカルはシグナル伝達などの生理的な機能にも役割を担っているので、ヒドロキシラジカルだけを消去することは理論的な利点になります。 実際に、様々な実験モデルで、水素はヒドロキシラジカルを消去する作用によって脳組織の酸化傷害から神経細胞を保護する効果が報告されています。
体内に水素を投与する方法として、水素含有水の飲用、水素入浴(水素を発生させて水素を含有させた風呂)、水素含有生理食塩水の点滴、水素水の点眼、腸内細菌による水素の産生を促進させる方法などがあります。 水素はガラスを通過できるがアルミニウムの容器は通過できません。

●水素と酸化ストレスと炎症:
水素分子の抗炎症効果は、動物や人間での実験で示されています。 水素含有生理食塩水は、気管支肺胞洗浄液中の炎症性サイトカインのIL-4、IL-5、IL-13およびTNF-αのレベルを減少させました。 水素は炎症組織の腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インターロイキン(IL)-1β、およびIL-6レベルを抑制する作用があり、この作用は紫外線(UVB)照射に対する細胞保護作用のメカニズムと関連しています。
水素は、TNF-αによって誘導されるNF-κB経路の活性化を阻止します。 水素産生能をもつ大腸菌のような腸内細菌による水素の産生は、体内の炎症を抑制している可能性があります。多くの研究結果は、双極性障害の発症に多くのインターロイキンが密接に関与していることを示しています。

●前臨床研究の結果:
急性肺損傷の動物実験モデルにおいて、水素吸入は急性肺の炎症を減少させました。 水素含有水の飲用は、ラット腎臓組織における活性酸素種の産生を減少させました。
アンチマイシンを投与して細胞死を誘導する実験系で、水素はミトコンドリアおよび核のDNAをヒドロキシラジカルからの傷害から保護し、ミトコンドリア膜ポテンシャルの低下を防いで、細胞死を阻止しました。
電離放射線による細胞傷害の主要な原因はヒドロキシラジカルによるものであるため、水素は放射線による細胞傷害の抑制に有効です。 中大脳動脈閉塞によって脳梗塞を発症させる動物実験モデルにおいて水素は梗塞サイズを縮小し、酸化ストレスのマーカーを減少させました。 新生子豚を窒息させる動物実験モデルでは、水素は同様に神経細胞を保護する作用を示し、脳血管反応性を保持しました。

●臨床研究の結果:
酸化ストレスに関連した様々な病気の治療に水素が有効である可能性が示唆されています。このような疾患には、パーキンソン病、脊髄・心臓・肺・肝臓・腸管における虚血/再還流傷害、肺・心臓・腎臓・腸管の移植などが含まれています。
水素含有水の飲用による水分の補充は、運動中における血中の乳酸値レベルを減少させ、筋肉の機能を高めることができます。
2型糖尿病の患者での研究では、水素は酸化ストレスのマーカーのレベルを低下させました。同様な作用はメタボリック症候群でも報告されています。
パーキンソン病では、黒質における過酸化脂質の増加や還元型グルタチオンの減少がみられ、この黒質組織における酸化ストレスの増大がパーキンソン病の発症原因として指摘されています。 ラットのパーキンソン病の実験モデルでも水素はパーキンソン病の発症を予防しました。また、脳動脈の閉塞による虚血/再還流の実験モデルで生存率を上昇させました。 パーキンソン病の動物実験モデルで、黒質のドーパミン作動性ニューロンの4-ヒドロキシ-2-ネノナール(酸化ストレスのマーカー)の量を減少させました。
前臨床研究では水素の量とその効果との関連が十分に明らかになっていません。 人間での無作為二重盲検試験(N=18)の予備試験では、レボドパ(levodopa)を服用している患者を対象に、水素水を1日1000ml飲用した場合を効果が検討されました。
水素水を飲用した群では、総合統一パーキンソン病評価尺度(Total Unified Parkinson’s Disease Rating Scale)のスコアでの評価で病状の軽減を認めましたが、プラセボ群では悪化を認めました。 このような細胞保護作用には水素が細胞のシグナル伝達を制御する作用も関与していることが示唆されています。
水素の抗酸化や抗炎症の作用メカニズムについては不明な部分もあります。金属タンパク質(metalloproteins)を制御するという報告もあります。さらに、水素は一酸化窒素に由来するパーオキシナイトライト(peroxynitrite)の産生を抑制する作用があります。
慢性関節リュウマチの患者における研究では、水素含有水の飲用はヒドロキシラジカルの消去作用によって酸化ストレスを軽減し、4週後には臨床症状の改善が認められました。
さらに、肝臓腫瘍で放射線治療を受けた患者の検討では水素水は生活の質(QOL)を改善しました。 発熱や痛みを伴う紅班性皮膚疾患の患者4名に水素含有の生理食塩水500mlを点滴で投与した臨床研究では、水素点滴によって症状の改善が認められました。
ミトコンドリア・ミオパチー患者を対象に行われた無作為化比較試験では、水素水はミトコンドリアの機能障害や炎症を減少させました。
経口投与された水素水が、体内で発生するヒドロキシルラジカルを除去するのに十分な分子状水素を持たない可能性がある場合は結果の評価に注意が必要です。
第二に、体内での水素の滞留時間は、体内で連続的に生成されているヒドロキシルラジカルを十分に消去するには短すぎるかもしれません。 また、疾患ごとの最適な投与回数や投与量、投与方法に関して、まだ十分に検討されていないなどの問題点も残されています。

●結論:
水素ガスは多彩な生物活性を有しており、炎症や酸化傷害やアポトーシス経路の異常に関連する多くの病気の治療法として魅力的な治療薬です。 しかし、多くの問題点が解決されていません。
水素水はその飽和した濃度は0.8mM程度と少なく、半減期が極めて短いので、体内での作用の評価は困難かもしれません。
また、体内では腸内細菌によって1日に1Lもの水素が産生されているという事実から、多くの実験で使われている水素の投与量は極めて少ないという指摘もあります。
つまり、現時点では、水素の体内での作用メカニズムを十分に解明できておらず、極めて限られた知識しかありません。 水素の作用の分子生物学的なメカニズムを解明するには、さらに多くの前臨床試験(基礎研究)のデータが必要です。
しかしながら、とりわけ神経科学の分野では、その作用メカニズムが十分に解明されていないにもかかわらず、治療効果が認められて広く使用されている薬は多く存在します。 非常に限定したデータしかありませんが、一般的に水素の安全性は問題ないので、臨床試験によってその臨床効果を検討する必要があります。
水素の臨床応用を促進するためには、水素の有効投与量、投与法、薬効動態、作用メカニズムや毒性に関する多くのデータが必要です。

上記に紹介した関節リュウマチや精神疾患以外に、水素ガスは多くの疾患の治療において有効性が報告されています。

図:水素ガス治療は、日本人の3大死因の悪性腫瘍、心血管疾患、脳血管疾患を始め、患者数の多い糖尿病、メタボリック症候群、慢性呼吸器疾患、肺炎、アルツハイマー病などの認知症、パーキンソン病、腎炎・ネフローゼ、抗がん剤や放射線治療の副作用、自己免疫疾患などの慢性炎症性疾患、精神疾患(双極性障害や統合失調症など)など、多数の疾患や病態の治療において有効性が報告されている。

しかし、水素ガスの臨床効果に関しては、まだ十分には解明されていません。
水素を含有させた水素水の飲用が、様々な疾患の実験モデルや臨床試験で有効性が報告されています。しかし、水素が水に飽和した状態での水素の量は0.8mM(1.6ppm)程度です。つまり、水素で飽和した水素水を1リットル飲んでも1.6mgの水素を摂取したに過ぎません。 一方、体内では腸内細菌が1日に1リットルの水素を発生していると言われています。 これは、1モルの水素(H2)は2グラムで、体積は22.4リットルになりますので(22.4リットルの中にアボガドロ数の約6x(10の23乗)個の水素分子が存在する)、1リットルの水素は約90mgになります(2÷22.4=0.0892857)。 つまり、水素を飽和した水を1リットル飲用して体内の水素摂取にどれだけ意味があるのかという疑問があります。 そこで、水素ガスの吸入の方が効果が得られる可能性が高いと言えます。 例えば、発砲水素剤を用いた方法では、10リットル以上の水素ガス(重量として1g以上)を吸入で摂取することができます。 水素ガス療法は、がん治療だけでなく、関節リュウマチや神経変性疾患や精神病や糖尿病など多くの病気の治療に有効であることが示されています。 日頃から、水素ガスの吸入を行う価値はあるように思います。

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