長生ドラジ(Jang Saeng Doraji)の抗がん作用

【桔梗の根は古くから漢方薬の材料(生薬)として利用されている】

桔梗(キキョウ)は日本や朝鮮半島や中国に広く分布するキキョウ科の多年草です。日本では花を観賞用に、韓国では根をキムチやナムルに食材として使い、中国では根を生薬として病気の治療に利用しています(下図)。

図:桔梗(キキョウ)は日本や朝鮮半島や中国に広く分布するキキョウ科の多年草で、つぼみの状態では花びら同士が風船のようにぴたりとつながっているため "balloon flower" という英名を持つ。
日本では秋の七草で知られるように花を観賞用として、韓国では根を山菜(キムチやナムルなどの食材)として、中国では薬用(生薬)として主に用いられている。 生薬(漢方薬を作る材料)としては、キキョウの根の細根を去って乾燥したものを細切して煎じ薬に使用する。

生薬(漢方薬を作る材料)としては、キキョウの根の細根を去って乾燥したものを細切して煎じ薬に使用します。
約2000年前の薬物書である神農本草経に既に記載され、古くから漢方治療に使用されています。神農本草経は365種の薬物を上品・中品・下品の三品に分類して記述しています。上品は滋養強壮作用があり無毒で長期服用が可能な生薬、中品は病気の予防や治療に効果があるが、使い方次第で毒にもなる生薬、下品は病気を治す力は強いが、毒性もあるので長期服用は良くない生薬です。
桔梗はこの分類の下品に分類されています。つまり、強い薬効を持つ生薬として利用されてきたわけです。
中国の中医薬の処方集に記載されている処方の約6%くらいに桔梗が使用されていると言われています。日本漢方でも保険収載の146処方のうち約8%に入っています。(桔梗湯、荊芥連翹湯、五積散、柴胡清肝湯、小柴胡湯加桔梗石膏、十味敗毒湯、参蘇飲、清上防風湯、清肺湯、竹茹温胆湯、排膿散及湯、防風通聖散の12処方に入っています。)

鎮咳、去痰、鎮痛、鎮静、解熱、排膿などの作用があるとされ、鎮咳去痰薬消炎排膿薬などに使われています。さらに、近年の科学的研究によって、脂質代謝(高脂血症)や糖質代謝(糖尿病)や肥満を改善する作用脂肪肝や肝線維化や肝障害を改善する作用神経変性疾患や認知症を改善する作用免疫力を高める作用がん細胞の増殖を抑える作用などが報告されています。
主要成分はトリテルペノイドサポニン、ステロール、多糖類(イヌリンなど)などですが、薬効の多くはサポニン類(プラチコジン、ポリガラシンなど)の作用と考えられています。

図:桔梗の根に含まれる多種類のサポニンや、サポニンから糖が外れたサポゲニン、多糖のイヌリンなどの薬効によって、様々な疾患の予防や治療に効果がある。がんに対しても、有用な作用が多数報告されている。

【桔梗サポニンの薬効】

サポニンは多くの植物に含まれる成分で、水に混ぜて振ると石けんのように持続性の泡を生ずる化合物群に付けられた名称です。サポニン(saponin)という名前は泡を意味する「シャボン(サボン)」に由来します。
サポニンの構造はトリテルペンやステロイドにオリゴ糖(二個以上の糖が結合したもの)が結合した配糖体です。糖の部分は水酸基が多く親水性であるのに対して、非糖部分は疎水性であるため、同じ分子内に親水性と疎水性という両極端な性質をもった部分構造が共存しているため界面活性様作用を持つことになり、そのために水に混ぜて振ると泡立つのです。

図:サポニンの例として桔梗に含まれるサポニンの一種のプラチコジンD(Platycodin D)を示す。サポニンは配糖体の一種で、糖と非糖部(サポゲニン)に分けられる。糖部は水溶性(親水性)であるのに対して非糖部のサポゲニン(アグリコンとも言う)は水に溶けにくい(疎水性)性質を持つ。この構造によってサポニンは界面活性作用を持ち、水と混ぜて振ると泡立つ。消化管内では、糖鎖部分が外れてサポゲニンとして吸収され、細胞内に取込まれて薬理活性を示す。

サポニンは腸内の細菌によって糖分子が切断され、アグリコン(配糖体の非糖部分でサポゲニンとも言う)の形で吸収され、細胞内に入って様々な薬理作用を示します。
漢方薬の薬効にサポニンあるいはそのアグリコン(サポゲニン)が非常に重要な役割を担っています。
例えば、柴胡(サイコ)に含まれるサイコサポニンには肝障害改善作用・抗炎症作用・抗アレルギー作用、インターフェロン産生を高めて免疫力を高める効果が報告されています。
高麗人参は、体力や免疫力やストレスに対する抵抗力を高める作用や、中枢神経系や循環器系や内分泌系など様々な生体機能に対する作用が知られていますが、その多彩な作用は様々な種類の人参サポニン(ジンセノサイド)によるものと考えられています。
黄耆(オウギ)に含まれる様々なトリテルペンサポニンは免疫力を高める作用があることが知られています。その作用は、マクロファージやリンパ球を活性化して、細胞性免疫や抗体産生を高める効果があります。オウギを服用するとインターフェロンやインターロイキン-2の産生を高め、がん細胞に対する免疫力を高めます。オウギサポニンのアストラガロシドにはアディポネクチン濃度を高める作用が報告されています。
桔梗(キキョウ)は去痰薬として知られています。キキョウの去痰作用はサポニンの界面活性作用や気道粘膜の粘液分泌を促進することによると考えられています。
キキョウのサポニンおよびサポゲニン(糖部分が外れたアグリコン)には、去痰作用以外に、脂質や糖質代謝を改善する作用、肝臓の炎症や線維化を抑制する作用、神経変性疾患や認知症を改善する作用、免疫力を高める作用、がん細胞の増殖を抑制する作用などが報告されています。したがって、桔梗は、気管支炎や喘息、糖尿病、高脂血症、肝臓病、アルツハイマー病などの認知症、各種のがんなど多くの疾患の予防や治療に効果が期待できます
キキョウサポニンとして、プラチコジン(Platycodin)A, C, D, D1、ポリガラシン(Polygalacin)D, D2など21種類以上が知られています。これらのサポゲニン(サポニンから糖が外れた成分)としては、Polygalacic acid, Platycodigenin, Platycogenic acid A, B, C, Platycodogeninなどがあります。
その他の成分として、植物ステロール、イヌリン、ミネラルなどが含まれます。
イヌリンは果糖(フルクトース)が重合したもので、人間の消化酵素では消化されないため小腸を素通りしますが、大腸において腸内細菌によって分解されます。イヌリンは非常に効果的なプレバイオティクスであり、腸内において乳酸菌のような人体に有益な細菌を増やす効果があります。

【がんの予防や治療における桔梗の効果】

前述のように、桔梗は呼吸器疾患や肝疾患や糖尿病や高脂血症や認知症など様々な疾患の予防や治療に効果が期待できます。ここでは、がん治療との関連で、どのような効果が期待できるかをまとめています。

抗がん剤の副作用軽減
キキョウのサポニン成分が抗がん剤の副作用を軽減する効果が報告されています。
例えば、キキョウに含まれるトリテルペノイド・サポニンのプラチコジンDはマウスにおけるシスプラチン誘導性の腎毒性を緩和する効果が報告されています。(Food Chem Toxicol. 50(12): 4254-9, 2012年)
シスプラチンは白金製剤の抗がん剤で、がん細胞のDNA鎖と結合することで、DNAの複製を妨げ、がん細胞を死滅させます。多くのがんの抗がん剤治療に使用されていますが、腎障害による副作用がおきやすいのが特徴です。このシスプラチンの腎臓障害をキキョウの主要なサポニンであるプラチコジンDが軽減できるという実験結果です。
その機序として、抗酸化酵素の誘導や活性化、NF-κB活性化抑制などの抗炎症作用などが関与しているようです。
様々な方法(胆管結紮、四塩化炭素、アルコール、アセトアミノフェン、など)で肝臓の傷害や炎症や線維化を起こすようなマウスを使った実験で、キキョウのサポニンのPlatycodin Dが、肝傷害や炎症や線維化を軽減する効果が報告されています。
抗がん剤治療や手術などで肝臓はダメージを受けやすいので、肝細胞をダメージから保護し、炎症や線維化を抑制する効果は、抗がん剤治療などがん治療における肝障害の予防に有効です。

発がん予防
様々な動物発がん実験モデルで、桔梗サポニンが発がん過程を抑制する効果が報告されています。
慢性炎症はがんの発生を促進しますが、桔梗サポニンは転写因子のNF-κBの活性抑制や一酸化窒素合成酵素の阻害作用などの抗炎症作用が報告されています。さらに、抗酸化作用や免疫増強作用も報告されており、このような抗炎症、抗酸化、免疫増強などの作用ががん予防効果を発揮すると考えられています。

がん細胞の増殖や転移の抑制
培養細胞や動物移植腫瘍の実験レベルですが、がん細胞のアポトーシス(細胞死)を誘導する作用、浸潤や転移を抑制する作用などが報告されています。

免疫増強作用
サポニンにはインターロイキンやインターフェロンといったサイトカインの産生を高める作用があることが報告されています。 サイトカインとはリンパ球や炎症細胞などから分泌される蛋白質で、細胞の増殖、分化、細胞死などの情報を伝達し、免疫や炎症や創傷治癒など様々な生理機能の調節を担っています。サイトカインは細胞表面の膜上にある受容体に結合することによって、受容体に特有の細胞内シグナル伝達の引き金となり、極めて低濃度で生理活性を示します。 白血球が分泌し免疫系の調節を行なうインターロイキン、ウイルス増殖阻止や細胞増殖抑制の働きをもつインターフェロン、様々な種類の細胞増殖因子など、数百種類のサイトカインが知られています。つまり、サポニンは免疫細胞からのサイトカインの産生を高めることによって、細胞性免疫や抗体産生を活性化し、免疫力を高めます。   
サポニン以外にも、桔梗の水エキスに含まれるイヌリンなどの多糖成分にも免疫増強作用が認められています。
桔梗の熱水エキスの場合、サポニンとイヌリンの両方の成分の相乗効果によって免疫増強効果が高まる可能性が示唆されます。

インスリン感受性を高めてインスリンの分泌を減少させる
桔梗サポニンがAMP依存性プロテインキナーゼの活性化などの機序を介して、インスリン感受性を高めて、糖代謝を改善する作用が報告されています。
インスリンはがん細胞の増殖を促進することが明らかになっており、インスリン感受性を高めてインスリン分泌を減らすことは、がん細胞の増殖を抑制する効果が期待できます。
肥満やメタボリック症候群やインスリン抵抗性といった病態を改善することはがんの発生や再発の予防や進展抑制にも効果があります。

抗がん剤による認知機能障害の改善
抗がん剤治療を長く受けていると、神経細胞にもダメージが蓄積して、認知障害を起こすことがあります。これをケモブレイン(chemobrain)と言います。抗がん剤治療後に、記憶力や思考能力が低下し、かなり長期間にわたって認知障害が続くことが問題になっています。
桔梗サポニンには神経系の働きを活性化し、認知機能を高める効果が報告されています。つまり、ケモブレインの予防や治療に役立つと言えます。

【桔梗21年根の『長生ドラジ』は3年根の30〜50倍の薬効を示す】

生薬としては、根が太く、内部が充実し、えぐ味の強いもの(サポニン含量が多い)が良品とされています。桔梗の根は栽培年数が増えれば太くなり、成分も多くなります。したがって、栽培年数の多い桔梗の根ほど薬効が高いと言えます。
これは高麗人参も同様です。高麗人参は通常は播種後4〜6年の根を生薬として使っています。もっと長く栽培すると効能も増すのですが、6年以上同じ場所で栽培すると病害が発生したりして枯れてくるものが増えてくるからです。また、人参を栽培するとその土地は10年間以上、作物が育たないと言われるくらい、その土地の栄養分を吸収して根に蓄えるため、同じ場所では6年間くらいが限界になります。
同じような理由で、桔梗の根も通常は播種後3〜4年の根が生薬として使われています。4年以上同じ場所で栽培すると病害が発生しやすくなり枯れるからです。
桔梗を韓国ではドラジと言います。韓国では、ドラジはキムチやナムルなどに食材として利用されています。漢方薬の材料としても利用されますが、通常は播種後3〜4年の根です。
韓国では、21年以上栽培した桔梗の根が病気の予防や治療の目的で使われています。これを『長生ドラジ』と言います。根の部分が薬材になるドラジ(桔梗)や高麗人参などは年数が古いほど薬効成分の蓄積が高くなりますが、通常のドラジは1〜4年程度の寿命しかないため、桔梗が潜在的にもつ薬効が十分に発揮できませんでした。
しかし、韓国の李聖鎬(リソンホ)氏が40数年間に及ぶ研究の結果、21年以上も長生きできる長生ドラジの栽培法を確立しました。
長生ドラジは通常のドラジ(3〜4年根)より30〜50倍の高い薬効を示すことが最近の様々な研究で明らかになっています。つまり、上記の様々な桔梗の薬効が、長生ドラジでは非常に高くなっていると言う事です。
がんに関する臨床研究としては、ソウル東仁堂漢方病院で400人以上の末期がん患者に長生ドラジを投与した研究が報告されています。その報告によると、完全寛解(がんの消滅)が約3%、部分寛解や病状安定(がんが縮小あるいは増大しない)が約10%、QOLの向上や生存期間の延長が約67%、効果なしが約20%という結果が示されています。

サポニンを含む生薬として高麗人参や桔梗(特に長生ドラジ)はがん治療に有用です。神農本草経では高麗人参は上品(無毒で長期服用可能な養生薬)、桔梗は下品(治療効果が強いが毒性もある)に分類されています。がん治療においては、滋養強壮作用だけでなく、がん細胞の増殖を抑える作用も必要です。この目的において、桔梗サポニンは薬効が期待でき、長生ドラジを使ったがん治療の可能性を示唆します。

図:通常の3年根に比べ、21年根以上になると、成分に大きな変化が起こり、30〜50倍の高い薬理効果を示す。

【長生ドラジの栽培について】

長生ドラジは韓国慶尚南道の智異山(ジリ山)一帯でしか栽培できません。これは智異山一帯が四季の区別が明確で、清浄な黄土性土壌地域であるためと考えられています。
桔梗を3年ごとに新しい畑に植え替えて育てます。つまり、6回以上植え替えて21年根ができます。土壌の栄養分が全て根に吸収されるため、一度栽培した畑は10年間休ませます。
また、無農薬、無肥料で育てます。農薬や肥料を用いると、短期間で根が成長しますが、長生きできずに根が腐ってしまうからです。
植え替えを繰り返すことにより、ドラジ(桔梗)の根は大きく成長し、他に類をみないほど多くの薬効成分を蓄えていきます。
21年という長い年月をかけ、見事な大きさへと成長し収穫されます。そして専用工場にて商品へと加工されます。

李聖鎬(リソンホ)氏は1954年から40数年間の絶え間のない栽培法研究を続けた結果、数十年以上も長生きできる長生ドラジの栽培に成功し「多年生ドラジ栽培法」という世界的にも珍しい植物栽培法での特許(大韓民国特許第045791号)を取得しました。
この栽培法を開発した李聖鎬氏は、2000年に金大中大統領から日本の国民栄誉賞にあ たる大韓民国石塔産業勲章を受勲しました。またその 開発の成果が高等学校の教科書にも掲載されており、国家的に育成する生薬新素材として注目されています。