なぜ死の間際まで抗がん剤治療を受けるのか

【医者は抗がん剤治療を受けない】

週刊誌のアエラ(朝日新聞出版)の2018年2月12日号に「医師ががんになったら、どんな治療法を選択するのか」という内容の記事が載っています。内容の抜粋はネットで見れます。(こちらへ
ステージ4(がんが他の臓器に転移している状態)の進行がんになったとき、医師がどのような治療法を選択するのかを、20代から60代までのがんの診療経験のある現役医師553人にアンケートで調査しています。 その結果、ステージ4のがんに対する治療として、抗がん剤治療を受けずに緩和ケアを選ぶ医師が40%前後という数字を報告しています。
具体的には、緩和ケアを選ぶ医師の割合は、胃がんが40%、大腸がんが35%、肝臓がんが43%、肺がんが40%、食道がんが39%、膵臓がんが56%、乳がんが32%、子宮がんが35%となっています。(詳しくはこちらのサイトへ
がんの種類によって抗がん剤の有効性が異なります。
膵臓がんの場合、緩和ケアを選ぶ医師が56%と多い理由として、この記事では「効く薬がないから」「痛いのはいや」「治療がしんどい」「現時点で有効な治療手段がない」「治る見込みがないなら、好きに過ごしたい」と言う意見を紹介しています。
週刊誌の記事ですので、どの程度の信頼性があるかは不明ですが、ステージ4の進行がんに対して、抗がん剤治療の有効性が低いこと、副作用の割に得られるものが少ないことは、がん治療に携わる医師であれば十分に認識しています。したがって、「膵臓がんや肺がんや肝臓がんになったら、抗がん剤治療は積極的には受けない」という意見を持つ医師が40から50%というのは妥当な数字のように思います。 

【転移がんでも抗がん剤治療で治ると思っている患者が多い】

転移のあるステージ4の進行がんは抗がん剤治療では根治はほぼ不可能です。根治というのはがん細胞が消滅することです。しかし、ステージ4の進行がんでも、抗がん剤治療でがんが治ると間違って信じている患者さんが多いようです。例えば、以下のような研究が米国から報告されています。

Patients' expectations about effects of chemotherapy for advanced cancer.(進行がんに対する化学療法の効果への患者の期待)N Engl J Med. 2012 Oct 25;367(17):1616-25.

この研究は、米国のCanCORS研究(the Cancer Care Outcomes Research and Surveillance study)の参加者のうち、がん診断後に抗がん剤治療を受け、診断されて4ヶ月後の時点で生存していた転移を伴う肺がんまたは大腸がん患者1193例を対象にして、化学療法によって治癒する可能性があるという期待を持つ患者がどの程度存在するかを調査しています。
CanCORS研究は2003年から2005年に米国で1万人以上の肺がんと大腸がん患者を対象に行われた大規模前向きコホート研究です。
調査の結果、肺がん患者の69%と大腸がん患者の81%が、抗がん剤治療によって自分のがんが根治する可能性は乏しいということを理解していない事が明らかになっています。
また、主治医とのコミュニケーションが極めて良好と評価した患者の方が、コミュニケーションがあまり良好で無いと評価した患者よりも、自分は治ると誤解している率が高いという結果も明らかになっています。
転移を伴う肺がんや大腸がんに対して、抗がん剤治療が週〜月単位で生存期間を延長し、症状を緩和できる可能性はありますが、治癒させることは現在の抗がん剤治療ではほぼ不可能です。治癒というのはがん細胞が体内から完全にいなくなることです。
前述の説明の様に、転移のある固形がんは抗がん剤治療で根治できないことは現時点では医学の常識です(今後の医学の発展でステージ4のがんが根治できる可能性はあります)。 しかし、このような進行がん患者の7〜8割は「抗がん剤治療で治癒する可能性が低い」ことを理解していないという結果です。しかも、主治医とコミュニケーションが良好に取れていると思っている患者ほど、誤解していることが多いという事です。
患者は自分の都合の良いように理解し、予後について厳しい話をするほど、患者満足度が低下するようです。 このようにがん患者は抗がん剤治療に過大な期待をもっているので、死の直前まで抗がん剤治療を受け、その結果、ホスピスでの適切な終末期ケアを受ける機会を逃す結果になると思われます。  

【抗がん剤の効果を過大評価しているがん患者が多い】

抗がん剤の有効性は、がんが縮小したかどうかで判断されます。CTなどの画像診断でがんの大きさ(腫瘍の最長径の和)が30%以上縮小した状態が4週間以上続いた場合に「有効」と言います。画像診断でがんが消失した場合を完全寛解(または完全奏功)と言い、30%以上縮小したが消失はしていない場合を部分寛解(部分奏功)といいます。
完全寛解といっても、がん細胞が完全に消滅した訳ではなく、画像で見えなくなっただけで、微小ながんが残っていることが多いので、いずれ再増殖してくる可能性があります。 部分寛解の場合、その状態が長く続けば延命に結びつくのですが、死滅しないで残ったがん細胞は、その抗がん剤に抵抗性をもったがん細胞ですので、すぐに増殖して数ヶ月後にはもとの大きさに戻ることが多いので、延命には結びつかないことも多いのです。
抗がん剤を使った患者のうち、完全寛解あるいは部分寛解が得られた割合を奏功率あるいは有効率と言っています。 「奏功率が3割」とか「がん患者の3割に効く」というと、患者さんは、3割の人が治ると思いがちですが、それは間違いです。抗がん剤治療を受けた人のうち腫瘍が一時的(4週間以上)に縮小する割合が3割ということです。有効率が3割でも、延命効果はなく、治癒率は0%という例はいくらでもあります。 一時的に癌が縮小し、4週間以後にがんが増大し、2ヶ月後に患者が死亡したとしても、完全奏効や部分奏効が見られた場合は、その治療は「有効」とされてしまうのです。
腫瘍を早く小さくする「切れ味の良い」化学療法は、患者も医者も治療効果が目に見えるため安心感と期待を持ってしまいます。しかし多くの臨床経験から、「腫瘍縮小率の大きさと延命効果が結びつかない」ことが認識されるようになり、「奏功率の高い抗がん剤が良い」という考えには多くの疑問が出されています。
進行がんでも化学療法を使用する医者の言い分として、がんを少しでも縮小させることは延命につながり、痛みなどの症状を抑えることができると述べています。確かに、進行した胃がんや大腸がんでは、抗がん剤を使った方が使わない場合より平均で数カ月〜1年程度生存が延びるという報告もあります。しかし一方、抗がん剤の副作用で早く亡くなる人も多くいます
健康食品やサプリメントには誇大広告がつきものです。ほとんど効果がないのに、がんに効くと思わせるような巧みな宣伝が行われています。
一方、抗がん剤は国の認可を受けた医薬品ですので、誇大な宣伝は行われていないように思われていますが、そうではありません。 6ヶ月目で比較すると20%くらいの生存率の上昇があるが、平均生存期間(生存期間中央値)は2ヶ月程度延びるだけで、2年後は非治療群と生存率で差が無くなって、4年後には両グループとも全員死亡したという場合でも、「死亡リスク低下」や「生存率が大幅に上昇」や「画期的な新薬」という表現で宣伝されているのです。
生存率が20%上がるというと、20%の人が多く治ると勘違いしている患者さんもいます。このような説明で、がん患者は抗がん剤治療に過大な期待を持ちます。そのため、副作用の説明を受けても、少しでも延命できるならと抗がん剤治療を受けています。 しかし、無増悪生存期間の延長や腫瘍縮小(奏功率)で有効性が示されても、延命効果(全生存期間の延長)が証明されていない抗がん剤は数多くあります

【がん患者はわずかな利益のために副作用の強い抗がん剤治療を受け入れる】

標準治療が認めている通常の抗がん剤治療は強い副作用を伴います。副作用が耐えられるギリギリの量(最大耐用量という)の抗がん剤を投与するためです。抗がん剤の量を減らして副作用の少ない低用量の抗がん剤治療を行う場合もあります。 強い副作用を伴う治療でも、治癒する可能性が3割くらいあれば、その治療を受けてみようと決断する人は多いと思います。しかし、治癒する確率が1%しかないと言われると、その抗がん剤治療を受ける事を拒否する人の方が多いと思います。
しかし、がん患者さんは、治癒する確率が1%と言われても、副作用の強い抗がん剤治療を受けることが報告されています。化学療法に対するがん患者の受け止め方を、医師や看護師や一般市民の見解と比較した研究が英国から報告されています。

Attitudes to chemotherapy: comparing views of patients with cancer with those of doctors, nurses, and general public.(化学療法に対する態度:がん患者の見解を医師、看護師、一般市民の見解と比較する)BMJ. 1990 Jun 2;300(6737):1458-60.

この研究はロンドンのがん治療専門の病院で、新たに固形がんが診断され、化学療法による治療が計画され、アンケート調査が完了した100人が対象です。 患者群と年齢・性別・人種・仕事の構成を一致させた100人のコントロール(対照群)、315人のがん治療専門医師(238人の放射線治療医と77人の腫瘍内科医)、無作為に選ばれた1500人の一般開業医、1000人の無作為に選ばれたがんがん治療に携わる看護師と比較されました。その研究の結果を論文から日本語に訳して下の表にまとめています。 

表:副作用の強い集中的化学療法および副作用の軽い化学療法の2種類のレジメに対して、どの程度の効果があればその治療を受けてみようと思うかを、治癒の確率(%)と生存期間の延長(月)と症状が改善する確率(%)の中央値を示している。例えば、がん患者は治癒の可能性が1%、生存期間の延長が12ヶ月、症状の改善が10%期待できれば、副作用の強い抗がん剤治療を半数以上が受け入れると回答している。一方、がんに罹っていない対照群は、治癒の可能性が50%、生存期間の延長が24ヶ月以上、症状の改善が75%でなければ、半数以上は副作用の強い抗がん剤治療を受けないと回答している。がん患者は極めてわずかな利益のために抗がん剤治療を受ける態度を示す。(出典:BMJ. 1990 Jun 2;300(6737):1458-60.)

この研究では、2つの化学療法のレジメを仮定しています。
一つは典型的な集中的化学療法です。副作用が耐えられる最大量の抗がん剤を投与する方法です。このレジメでは、強度の吐き気や嘔吐、脱毛、倦怠感、体力低下、性欲減退、不妊など強い副作用や、頻回な注射や点滴の使用、1ヶ月に3から4日程度の入院といった状況になる治療法です。
もう一つは、軽度の吐き気や嘔吐を経験するが、脱毛は無く、倦怠感や体力低下は軽度で、注射や点滴の回数も少なく、入院も1ヶ月に1回程度という副作用の少ないレジメです。
この2つのレジメに対して、どの程度の効果が期待できれば、その治療を受けるかという質問をし、各個人がこれ以上のメリットがあればという最低限の有益性を数値で回答し、その中央値で評価しています。がんが治癒する確率、治癒できない場合はどの程度の延命効果か、症状の緩和の確率の3つの評価で、どの程度のメリットが得られれば、その治療を受けるかという比較です。
通常の考え方では、受けることによるメリット(治癒する確率、延命する期間、症状が緩和する確率)が大きければ、副作用の強い化学療法でも受けてみようと考えると思います。副作用が少ない化学療法であれば、治療から得られるメリットが少なくても、治療を受ける判断をしやすくなります
対照群(がんに罹っていない一般人)では、副作用の強い抗がん剤治療を受けるには、中央値として、治癒の可能性が50%、生存期間が24〜60ヶ月延長、症状緩和の確率は75%が必要と考えています。 つまり、この程度のメリットがなければ半数の人はこの治療を受けないということです。 副作用の軽い化学療法の場合は、治癒の確率が25%、生存期間延長が18ヶ月、症状が改善する確率が50%であれば、半数の人はこの治療を受けるという結果です。副作用の少ない治療であれば、得られるメリットが少し低くても受容するということです。
一方、がん患者は、治癒の可能性が1%、生存期間の延長が12ヶ月、症状が改善する確率が10%あれば、副作用の強い集中的化学療法を半数は受けると答えています副作用の軽い化学療法であれば、1%の治癒の可能性、3ヶ月間の生存期間延長、1%の症状の改善が得られる可能性があれば半数は受けるという結果です
一方、開業医やがん専門医やがん治療に関わっている看護師の意識調査では、副作用の強い集中化学療法を受けるには、治癒の可能性が10%、生存期間延長が12〜24ヶ月、症状の改善が50〜75%の効果が得られなければ、半数以上はこの治療を受けないということです。 副作用の少ない抗がん剤治療の場合は、治癒の可能性が10%、生存期間延長が6〜12ヶ月、症状の改善が25%の効果が得られなければ、半数以上はこの治療を受けないという結果です。
つまり、がん患者さんは、がんにかかっていない人(医師や看護師を含めて)よりも、有益性の可能性が低くても抗がん剤治療を選択する可能性が非常に高いことが示されました
遠隔転移のある固形がんの場合、集中的化学療法を行っても、治癒の可能性は1%もなく、生存期間の延長が12ヶ月を超えるものもほとんど無く、症状が改善する確率は10%も無い(むしろ症状は悪化し、QOLは低下する)ので、本来なら、ほとんどのステージ4の固形がんの患者さんは、集中的化学療法を受けたく無いと判断するはずです。
しかし、ほとんどのがん患者さんは集中的化学療法を受けています。 それは、治癒の確率は1%以上あると信じているからかもしれません。
前述のようにステージ4のがんは根治が困難であることを理解している人が少ないという報告もあります。 一方、治癒が望めないと理解しても、抗がん剤治療を受ける患者さんは減らないという調査結果もあります。
このように、ほとんどのがん患者さんは、わずかな利益のために集中化学療法を受け入れる態度を示すことが、死の直前まで副作用の強い抗がん剤治療を受け入れている理由の一つになっています。 ただ、死が迫っている進行がんの患者さんが、1%で治る可能性があれば、抗がん剤治療を受けようとする心理は理解できます。

【末期がんの抗がん剤治療が増えている】

末期がん患者に対する緩和目的での化学療法(緩和的化学療法)の実施が増えている事が多くの研究で明らかになっています。特に、死が迫った末期がん患者にも抗がん剤治療が行われている実態が明らかになっています。
例えば、米国からの報告では、メディケア(Medicare)の給付を受けている転移性の進行がん患者の15%以上が、死亡する2週間前に抗がん剤治療を受けていることが示されています。以下のような報告があります。

Trends in the aggressiveness of cancer care near the end of life.(終末期のがん患者ケアの攻撃性の傾向)J Clin Oncol. 2004 Jan 15;22(2):315-21.

メディケア(Medicare)とは、米国の高齢者および障害者向け公的医療保険制度で、アメリカ合衆国に合法的に5年以上居住している65歳以上のすべての人が給付の対象となっています。 この報告では、1993年から1996年の間に肺がん、乳がん、結腸直腸がん、その他の消化器がんを診断されて1年以内に亡くなった65歳以上の28,777人を解析しています。
抗がん剤治療を受けたのは1993年の27.9%から1996年の29.5%に増えています。死亡する2週間前に抗がん剤治療を受けていたのは1993年の13.8%から1996年の18.5%に増えています
ホスピスケアが受け易い環境が整っているほど、終末期の侵襲的治療は減ることが示されています。
この論文の結論は「がん患者の終末期治療は侵襲性がますます増えている」となっています。末期がん患者の終末期ケアが穏やかなものでなく、患者に対して侵襲的(攻撃的)な状況が増えているという意味です。
イタリアの研究では、進行がん患者の23%が死亡する30日以内に抗がん剤治療を受けているという報告があります。

Cancer chemotherapy near the end of life: the time has come to set guidelines for its appropriate use.(終末期のがん化学療法:適切な使用のためのガイドラインを設定する時が来ている)Tumori. 2007 Sep-Oct;93(5):417-22.

この研究はイタリアのボローニャ大学病院の腫瘍部門あるいはボローニャのがん患者在宅ホスピスで亡くなった進行がん患者793例を対象に解析しています。主ながんは、肺がん(26.7%)、結腸直腸がん(14.8%)、乳がん(11.2%)でした。このうち445人(56.1%)が1サイクル以上の抗がん剤治療を受けています。 最後の抗がん剤投与から死亡するまでの期間の中央値は71日(1〜1913日)で、101人(22.7%)は死亡する30日以内に抗がん剤治療を受けていました。 この論文では、余命が短い進行がん患者の化学療法の適切な使用に関するガイドラインを作成することが緊急に必要であることを提言しています。 

【新しい抗がん剤が増えた事が終末期の抗がん剤治療を増やしている】

肺がん患者の43%が死亡する30日前以降に抗がん剤治療を受けており、20%の患者は死亡する14日前以降に抗がん剤治療を受けていたという結果が米国から報告されています。

Chemotherapy given near the end of life by community oncologists for advanced non-small cell lung cancer.( 進行した非小細胞性肺がんに対する地域医療に携わるがん専門医による終末期に投与された化学療法)Oncologist. 2006 Nov-Dec;11(10):1095-9.

この報告では、56%の患者はセカンドライン(2次治療)の抗がん剤治療を受け、26%の患者はサードライン(3次治療)の抗がん剤治療を受け、10%の患者がフォースライン(4次治療)の抗がん剤治療を受け、5%の患者はフィフスライン(5次治療)あるいはそれ以上の抗がん剤治療を受けていました。 新規の化学療法剤の入手可能性が、進行した非小細胞性肺がん患者の化学療法を受けている期間の増加を引き起こしているとこの論文の著者は考察しています。
がん治療で初めて行う抗がん剤による治療を「1次治療(ファーストライン治療)」と呼びます。1次治療の効果がなかった場合や、効果が出たあとにがんが増大してきた場合には別の種類の抗がん剤で治療を行い、この治療を「2次治療(セカンドライン治療)」と呼びます。同様に、3次治療の次に行う治療を「3次治療(サードライン治療)」と呼び、その次を4次治療(フォースライン治療)と言います。
昔は使える抗がん剤の種類が少なかったので、セカンドラインかサードラインくらいで治療は終了していたのですが、新しい抗がん剤が使えるようになると、4次治療(フォースライン)や5次治療(フィフスライン)や、さらにそれ以上の治療が行われるようになります。その結果、抗がん剤治療を受けている期間が、近年益々増える傾向にあることが明らかになっています。
つまり、死ぬ間際まで抗がん剤治療を受けている人が増えているのは、新規の抗がん剤が増えてきたためです。使える抗がん剤の種類が増えたので、死ぬ直前まで抗がん剤治療を受けているがん患者が増えているようです。
新しい抗がん剤が臨床的に意味のある延命効果を発揮するものであれば、抗がん剤治療を死亡する直前まで受ける合理性はあるかもしれません。しかし、新しく承認された抗がん剤治療の多くは、延命効果も生活の質を改善する効果も高くないことが明らかになっています。つまり、抗がん剤治療のやり過ぎが寿命を縮めている可能性も指摘されています。

【末期がんの抗がん剤治療は苦しむだけで延命効果はない】

体力や抵抗力の低下している時に抗がん剤治療を行なうことは、すでに低下している免疫力や体力に壊滅的なダメージを与え、生命力そのものを低下させ、死を早める結果にもなります。抗がん剤投与によって免疫力や生体防御力が低下すると細菌やウイルスに感染しやすくなり、ますます全身状態が悪化して死を早めます。
西洋医学のがん治療には、体力や抵抗力を高めて延命する視点は乏しいと言わざるを得ません。 抗がん剤治療に代表されるように、病気の原因を取り除くためには体の抵抗力や治癒力を犠牲にしても構わないという考え方をしがちです。「がんは消えたが、患者も亡くなった」ということがしばしば起こっています。 末期がんの状態で抗がん剤治療を受けると、苦しむだけで延命効果は無いことが明らかになっています。末期がんで緩和の目的で抗がん剤治療を受けるとどうなるかという研究結果が米国から報告されています。

Associations between palliative chemotherapy and adult cancer patients' end of life care and place of death: prospective cohort study. (緩和的化学療法と成人がん患者の終末期ケアと死亡場所との間の関連性:前向きコホート研究) BMJ. 2014 Mar 4;348:g1219.

この研究は米国の8カ所の腫瘍クリニックで治療を受けた386例の末期がん患者の解析です。216例(56%)が緩和の目的で抗がん剤治療を受けていました。 集中治療室(ICU)で亡くなった割合は、抗がん剤治療を受けなかった群が2%で、抗がん剤治療を受けた群では11%でした
死亡時に心肺蘇生や人工呼吸器装着を受けたのは、抗がん剤治療を受けなかった群が2%で、抗がん剤治療を受けた群では14%でした自宅で亡くなって割合は、抗がん剤治療を受けなかった群が66%で、抗がん剤治療を受けた群では47%でしたホスピスなど自分が希望した場所で亡くなった割合は、抗がん剤治療を受けなかった群が80%で、抗がん剤治療を受けた群では65%でした両群に生存期間の差は認めませんでした。(下表)
この研究の結果は、余命数ヶ月の末期がん患者に抗がん剤治療を行うと、「延命効果はなく、生活の質が低下し、在宅やホスピスで亡くなる率が低下し、ICU(集中治療室)で亡くなる率が高くなり、最後に心肺蘇生や人工呼吸器装着をされてしまう」ということを示しています

表:末期がん患者386例中216例(56%)は,研究登録時(中央値:死亡前4.0ヶ月)に緩和的化学療法を受けていた。終末期に化学療法を受けた患者は、受けなかった患者よりも、集中治療室(ICU)で亡くなる可能性が高く(11% vs 2%)、死亡時に心肺蘇生や人工呼吸器の装着を受けることが多かった(14% vs 2%)。緩和的化学療法を受けた患者は自宅で看取られる率が低く(47% vs 66%)、ホスピスなど自分が希望した場所で亡くなる可能性が低かった(65% vs 80%)。しかし、生存期間には差は無かった。つまり、余命数ヶ月の末期がん患者に抗がん剤治療を行うと、「延命効果はなく、生活の質が低下し、自宅やホスピスで亡くなる率が低下し、ICU(集中治療室)で亡くなる率が高くなり、最後に心肺蘇生や人工呼吸器装着をされてしまう」 結果になる。(出典: BMJ. 2014 Mar 4;348:g1219.)

【終末期の抗がん剤治療はホスピスケアの機会を失う】

がんの薬物療法の進歩によって,終末期に近い時期にも抗がん剤治療が実施されることがあります。多くの患者や家族が、とことん治療してほしいと主治医に要望することも多いようです。患者やその家族の心理は常にがん治療に期待しています。しかし、がん治療は「あきらめないで、とことんやる」と最悪の結果になることが多いようです
進行がんに対して無理な手術が悲惨な結末に終わることは多くの例で明らかになっています。患者や家族は治療しないことに耐えられず、無駄な治療も受け入れがちです。しかし、それが死を早めている場合も多いのです。
将来的に抗がん剤治療が進歩すれば終末期でもメリットがあるようになるかもしれません。しかし少なくとも現時点の抗がん剤治療では、「末期がんの状態で抗がん剤治療を受けると、苦しむだけで延命効果は無い」ことが明らかになっています。
余命数ヶ月の末期がん患者に抗がん剤治療を行うと悲惨な最後を迎えるという研究結果は多くの国から報告されています。 たとえば、緩和的化学療法が終末期ケアをより侵襲的なものにし、ホスピス・サービスの使用を減らすことが台湾から報告されています。

Palliative Chemotherapy Affects Aggressiveness of End-of-Life Care.(緩和的化学療法は、終末期ケアの侵襲性に影響する)Oncologist. 2016 Jun;21(6):771-7.

この研究では、台湾国民健康保険データベースを用いて、2009年1月1日から2011年12月31日に緩和化学療法を受けた転移性がん患者49,920人を対象に解析しています。 その結果、1回以上の救急外来受診、1回以上の集中治療室入院、および気管内挿管は、緩和的化学療法を受けた患者で有意に多かったという結果が得られています。 また、緩和的化学療法を受けていない患者は、死亡するまでの6ヶ月間でより多くのホスピスケアを受けていました。つまり、終末期の緩和的化学療法は通常のホスピスケアから患者を遠ざける原因となっているということです。
この研究では、侵襲的な終末期ケアの指標として死亡する前の1ヶ月間で1回以上の救急外来受診、1回以上の入院、14日間以上の入院、集中治療室での治療、病院での死亡、心肺蘇生、気管内挿管などを使っています。
終末期(死亡2〜6か月前)に緩和化学療法を受けると、辛い終末期ケアになり、ホスピスで穏やかに息を引き取る機会を失う可能性が高くなるという結果です。 本来、終末期ケアは、ホスピスや自宅などで穏やかに死を迎えることが重要です。しかし、終末期に緩和目的で化学療法を受けると、トラブルの多い侵襲的な終末期医療になって、悲惨な最後を遂げるということです。

図:終末期(死亡2〜6か月前)に緩和的化学療法を受けると、化学療法を受けなかった場合に比べて、1回以上の救急外来受診(p <.001)、1回以上の集中治療室入院 (P <.001)、および気管内挿管(p = .02)が有意に多かった。

【抗がん剤依存症:医者も患者も抗がん剤治療を過大に評価している】

「固形がんに対する最大耐用量の抗がん剤投与」によるがん治療には多くの欠陥が指摘されています。
奏功率(腫瘍の縮小率)や無増悪生存期間の延長で有効性が示されても、全生存期間を延長するとは限らないことが明らかになっています
抗がん剤治療の奏功率を高めることを優先する結果、抗がん剤の副作用で苦しんでいる患者さんは増えています。抗がん剤治療に過大な期待を持つため、死の間際まで無駄で有害な抗がん剤治療が行われているという状況にあります。 
肝臓や腹膜に転移したステージ4の膵臓がんの治療成績は40年前とほとんど改善していません。進行膵臓がんに対する最大耐用量の抗がん剤治療が科学的であれば、40年も経てば生存率や生存期間や生活の質(QOL)がもっと良くなってくるはずです。 しかし、現在でも、進行膵臓がんで通常の抗がん剤治療が始まると、ほとんどの患者さんは半年〜2年で決まったように亡くなっています。
最大耐用量の抗がん剤治療が患者さんの体力を低下させると同時に、がん細胞の薬剤耐性を誘発(促進)して抗がん剤が効かなくなり、その結果、多くの患者さんは、抗がん剤治療開始後1〜2年で抗がん剤治療を終了せざるを得なくなります。数ヶ月の延命効果はあっても、かなりの副作用で苦しみます。
複数の抗がん剤を併用して抗がん作用を強くすれば、数ヶ月の延命が得られていますが、抗がん剤の数を増やせば副作用が強くでます。苦しみながら数ヶ月の延命という事実に、抗がん剤治療に疑問を持っている患者さんが増えています。 しかし、いったん広まった医療は変えるのは困難です。その問題が気づかれていても、再検証することはほとんど行われていません。
科学は知識を生み、意見は無知を生む」というヒポクラテスの言葉があります。「治療法が効くかどうかを判断するためには、意見ではなく科学を用いるべきだ」ということです。ヒポクラテスは約2400年前のギリシャの医者で、原始的な医学から迷信や呪術を切り離し、科学的な医学を発展させ、その業績から「医学の父」、「医聖」とよばれています。
私は、今の抗がん剤治療は本当に科学的な検証が正しく行われているのだろうかと疑問に思うことがあります。がん細胞だけをターゲットにがむしゃらに攻撃するという手法は原始的な医学と変わらないように思います。 科学的に検証することによって、正しい知識が得られ、有用な治療法を開発することができます。進行した固形がんに対する現行の抗がん剤治療が「科学的」というには、あまりにも進歩がなさすぎます。それは、経験から発想されたがん治療が、科学的な検証が十分に行われずに継続されているためだと思います。 奏功率と全生存期間の延長の相関が低いことが分っていても、奏功率の結果だけで抗がん剤が承認されているということは、抗がん剤の承認が科学的に行われていないことを証明しています。それを改めようとしないことも不思議です。
多くの抗がん剤が無増悪生存期間の延長で評価されて承認されていますが、無増悪生存期間が延長しても全生存期間が延長しない例が多く存在することが明らかになっています
がん患者さんは「もう治療法が無い」と言われるのが怖くて、無駄な抗がん剤治療にしがみついています。抗がん剤依存になっています。
標準治療は、抗がん剤治療が中止になれば、ホスピスでの緩和ケアしか選択肢が無いことが問題です。 標準治療は低用量の抗がん剤を使うメトロノミック・ケモテラピー漢方治療などの代替療法をエビデンスが無いといって否定しています。しかし、末期のがん患者に対する抗がん剤治療の方がエビデンスが乏しいのです。
がん治療以外に使用されている既存の安価な医薬品を使った副作用の少ないがん治療も報告されています。 臨床試験で効果が証明された代替療法もあります。がん患者は自分でそのような治療法にアクセスすることも一つの選択肢になると思います。
多くのがん患者さんは抗がん剤治療で延命すると思っているのかもしれません。しかし、延命効果が証明されていない抗がん剤が多く使われていることが指摘されています。 国が認めた治療に有益性が無いと言われると多くの人は信じないかもしれませんが、残念ながらそれは事実です。
2017年5月に、米国食品医薬品局が近年承認した抗がん剤の半数以上は臨床的なメリットが無いという論文が、臨床腫瘍学のトップレベルの学術雑誌のAnnals of Oncologyに発表されました。さらに、欧州医薬品庁が最近承認したがん治療薬のうち、「意味のある臨床的利益」があると評価されたのは20%以下であることを報告する研究結果も複数発表されています。
簡単に言えば、大した効果のない抗がん剤が多く使われているという事実が明らかになったのです。がん患者は効き目のない抗がん剤で苦しめられているだけかもしれないのです。 無駄で過剰で有害な抗がん剤治療で苦しんでいるがん患者さんが増えていることは問題だと思っています。
末期がんにおける抗がん剤治療の止め時を適切に判断できない患者さんが増えているように感じています。抗がん剤治療を止めた方が良いと理解しても止められない状況は「抗がん剤依存症」と言ってもよいかもしれません。「抗がん剤依存症」という病名があるわけではありません。患者さんや医師が、無駄な抗がん剤治療を止められない状況を現すために私が勝手に名付けただけです。 抗がん剤治療を止めるか続けるかを決めるのは患者さん本人ですが、これを判断する知識は患者さんにないのが問題です。
以上のような観点から、末期医療に抗がん作用と症状緩和の効果を目的とした漢方治療や代替療法はもっと利用されるべきだと思っています(下図)。 しかし、現実は、がんの終末期医療において、漢方治療が利用されることは稀です。標準治療の専門医の多くが漢方治療を否定しているためです

図:終末期に抗がん剤治療を受けた患者は、受けなかった患者よりも、集中治療室(ICU)で亡くなる頻度が高く、死亡時に心肺蘇生や人工呼吸器の装着を受けることが多い。末期がんで抗がん剤治療を受けた患者は自宅で看取られる率が低く、ホスピスや自宅など自分が希望した場所で亡くなる可能性が低い。終末期の抗がん剤治療は生存期間を延ばさない。つまり、余命数ヶ月の末期がん患者に抗がん剤治療を行うと、「延命効果はなく、生活の質が低下し、自宅やホスピスで亡くなる率が低下し、ICU(集中治療室)で亡くなる率が高くなり、最後に心肺蘇生や人工呼吸器装着をされてしまう」 結果になる。終末期のがん治療に漢方治療を取り入れるメリットは多い。西洋医学はがんを攻撃することしか考えないので、死の直前まで抗がん剤治療を行っていることが多い。がん患者も治療する医師も抗がん剤治療を過大に評価して「抗がん剤依存症」になっている。


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