イベルメクチンの薬物動態・副作用・服用法
【イベルメクチンの薬物動態】
イベルメクチン12mgを服用すると、血中濃度は約4時間後にピークになり、30ng/ml〜60ng/ml(35nM〜70nM)のレベルに達する。主に肝臓のCYP3A4によって代謝され、血漿中の消失半減期は約18時間と報告されている。イベルメクチンはP糖タンパク質で細胞外に排出 される。
血中濃度:
日本人における研究では、健康成人男子にイベルメクチンを錠剤で単回経口投与した場合、主要成分(H2B1a)の平均血清中濃度は、12mg投与では投与後4時間で32.0(±7.3)ng/mL、6mg投与では投与後5時間で19.9(±4.8)ng/mLの最高値を示しました。12mg投与では6mg投与に比べ、AUC(血中濃度−時間曲線下面積)及びCmax(最高血中濃度)の平均値が、それぞれ1.3倍及び1.6倍に増加しました。外国人における研究では、イベルメクチンを錠剤で12mg(平均用量は165μg/kg)単回経口投与した場合、主要成分(H2B1a)の平均最高血漿中濃度は、投与後約4時間で46.6(±21.9)ng/mLでした。血漿中濃度は、投与量(6、12、15mg)にほぼ比例して増加しました。
血中濃度の時間経過を表した曲線(薬物血中濃度-時間曲線)と、横軸(時間軸)によって囲まれた部分の面積(AUC: area under the blood concentration time curve)が、体内に取り込まれた薬の量を示す指標として用いられます。 AUCは体循環血液中に入った薬物量を意味します。
同一用量の薬剤を服用しても、消化管からの吸収、組織分布、肝臓での代謝(分解)、腎臓からの排泄など、薬物体内動態の個人差により、血中薬物濃度は等しくならないことがあります。一方、同一の血中薬物濃度となっても各個人の感受性の違いにより、薬理効果・副作用発現の程度が異なる場合もあります。
代謝・排泄:
イベルメクチンの血漿中消失半減期は約18時間でした。 イベルメクチンは肝臓で代謝されます。 イベルメクチンの代謝には主にCYP3A4が関与していることが報告されています。イベルメクチンはヒト及びマウスのP糖タンパク質の基質であることが報告されています。
つまり、P糖タンパク質によって細胞外に排出されるので、P糖タンパク質の発現量が多い多剤耐性のがん細胞にはイベルメクチンも効果がでにくいことを示唆します。
図:イベルメクチン12mgを服用すると、血中濃度は約4時間後にピークになり、Cmax(最高血中濃度)は30ng/ml〜60ng/ml(35nM〜70nM)のレベルに達する。血漿中の消失半減期は約18時間と報告されている。これは24時間後も体内に残るので、毎日服用すると体内にイベルメクチンが蓄積することを意味する。血中濃度の時間経過を表した曲線(薬物血中濃度-時間曲線)と、横軸(時間軸)によって囲まれた部分の面積(AUC: area under the blood concentration time curve)が、体内に取り込まれた薬の総量を示す。
【イベルメクチンの副作用】
イベルメクチンは一般に安全性と認容性の高い薬ですが、誰にでも副作用が出るリスクはあります。特に、がん治療で高用量を長期間服用する場合は、副作用に対する注意が必要です。
オンコセルカ症など寄生虫感染患者には、死んだミクロフィラリアに対するアレルギー性・炎症性反応によると考えられる症状が起こります。このような副作用には、中枢精神神経系(脳症、頭痛、昏睡、精神状態変化、起立困難、歩行困難、錯乱、嗜眠、痙攣、昏迷等)、筋骨格系(関節痛等)、その他(発熱、結膜出血、眼充血、尿失禁、便失禁、浮腫、呼吸困難、背部痛、頸部痛等の疼痛等)などの重大な副作用が報告されています。
しかし、これらの副作用は寄生虫に感染している場合であり、がん治療の目的ではこれらの副作用は起こりません。イベルメクチンの一般的な副作用として、消化器症状(吐き気、食欲不振、腹痛、下痢、便秘など)、肝機能障害(GOT/GPTの上昇)、貧血、白血球減少、神経精神症状(頭痛、めまい、無力症、抑うつ、不安、運動失調、震え、傾眠など)などが起こることがあります。
少量(0.4mg/kg体重以下)を短期間(1ヶ月間以内)の場合は、副作用はほとんど経験しない極めて安全性の高い薬です。
しかし、がん治療の目的で高用量(1mg/kg体重以上)で長期間服用すると、服用量と期間に比例して副作用のリスクが高まります。副作用の出方は個人差があり、比較的少ない量や期間が短くても、副作用が出る人はいます。
いくつかの症状が同じような時期にあらわれた場合は、使用を中止し、ただ ちに医師に連絡してください。
【イベルメクチンの服用法】
がん治療の場合は、イベルメクチンの服用量を増やし、長期間服用する必要があります。寄生虫疾患や新型コロナウイルスの治療に使用される服用法では、がんには全く効果はありません。
イベルメクチンは寄生虫疾患(糸状虫症、糞線虫症、ぎょう虫感染症)では150から200 μg/kg、リンパ系フィラリア症では400μg/kgを1から2回服用します。体重60kgで1日に12mg(200 μg/kg)から24mg(400 μg/kg)になります。
200 μg/kgは0.2mg/kgです。イベルメクチンは、無脊椎動物の神経・筋細胞に存在するグルタミン酸作動性クロール(Cl)チャネルに選択的かつ高い親和性を持って結合します。その結果、クロール(Cl)に対する細胞膜の透過性が上昇して神経又は筋細胞の過分極が生じ、その結果、寄生虫が麻痺を起こし、死に至ります。
哺乳類ではグルタミン酸作動性Cl−チャネルの存在が報告されていないので、安全性は極めて高いと言えます。寄生虫に対する死滅作用が強いので、寄生虫疾患の治療の場合は、通常は1回か2回で治療は終了します。つまり、寄生虫疾患の治療の場合は、1回か2回の投与で、ほとんどの寄生虫は死滅します。
新型コロナウイルス感染症の治療の場合は、1回200 μg/kg(0.2mg/kg)を1日1から2回、5日間から10日間程度服用するというプロトコールで臨床試験が行われています。しかし、この服用量では抗ウイルス作用を発揮する血中濃度に達しないので、効果が認められないという報告は多数あります。
がん治療の場合は、10日間程度服用しても、ほとんど効果は出ません。寄生虫やコロナウイルスに比べて、がん細胞はイベルメクチンに対する感受性が低いからです。
がん治療の場合は、がん細胞の増殖抑制や細胞死誘導の効果を得るためには、ある程度の血中濃度と期間が必要です。
がん細胞に対する効果を得るには5μMから20μM程度の血中濃度が必要と言われています。この血中濃度を得るには寄生虫疾患で使用される量(体重1kg当たり0.2mg)の数十倍が必要という報告もあります。
がんに対する効果を高めるためにはイベルメクチンの血中濃度を高める必要があります。
イベルメクチンは脂溶性なので、脂肪の多い食事で吸収が高くなります。 寄生虫疾患の治療では、脂肪で吸収が亢進して血中濃度が高くなるのを懸念して「空腹時に水で飲む」ように指定しています。しかし、がん治療の場合は、むしろ少ない服用量で血中濃度を高めるために脂肪の多い食事の後の服用の方が理にかなっています。
つまり、オリーブオイルや亜麻仁油や生クリームと一緒に服用したり、油脂の多い食事の後に服用すると体内吸収率を高めることができます。
血液中に吸収されなければ、体内のがん細胞には効果は出ません。 体内に吸収されたイベルメクチンは血液に入ってがん組織まで運ばれます。血液中に入らなければ、がん細胞に到達できません。また安全性は極めて高いのですが、半減期が長いので、長期に継続して服用すると血中濃度が高くなって副作用が出る可能性もあります。 ただし、薬の吸収や代謝は個人差があるので、がん治療に使うときは、副作用の有無や効果を評価しながら、試行錯誤の服用になります。
進行がんの場合は、がん細胞を死滅する効果を高めるために血中濃度を高める必要があります。しかし、血中濃度が高くなると副作用も出やすくなります。 副作用(吐き気、食欲低下、下痢、肝機能異常、貧血、精神神経症状など)が強く出ない範囲で、上記の薬物動態を参考に服用量を調節します。
【イベルメクチンの抗腫瘍効果を高めるための考察】
がん治療においては、イベルメクチンを内服する場合、1日に体重1kg当たり1mg程度の量を毎日服用する必要があります。血中濃度を高める方法を併用すれば0.5mg/kg/日程度でも効果が期待できる可能性があります。
イベルメクチンは、Akt/mTOR経路やWNT-TCF経路の阻害、RASシグナル伝達系の中心的役割を担うp21活性化キナーゼ(PAK-1)の阻害作用、血管新生阻害作用、抗腫瘍免疫を活性化するがん細胞の免疫原性細胞死の誘導など様々な機序で抗がん作用が報告されています。培養がん細胞を使った実験や、マウスにがん細胞を移植した動物実験などで抗腫瘍効果が報告されています。
イベルメクチンを使用した臨床試験の結果はまだ出ていません。どの程度の服用量が必要かは不明です。人間のがんに対する有効性も不明です。
私個人の経験としては、標準治療で匙を投げられた進行がんの患者さんにインフォームド・コンセントのもとに、がんの代替療法として実践しています。12mgを単回で摂取した場合の、最高血中濃度は30ng/ml〜60ng/mlのレベルです。
イベルメクチンの分子量は約870くらいなので(イベルメクチンは2種類の構造体の混合なので、正確な分子量は評価不能)、30ng/ml(30μg/L)は 35nM(nano mol)程度になります。60ng/mlは70nMです。
870μg/Lが1μMですので、10μMは8.7μg/mlになります。そこで、培養細胞や動物実験のデータを参考にする必要があります。
PAK1阻害の研究では、50%増殖阻害濃度(IC50)は細胞株に応じて5〜20μMの間でした。 (Drug Discov Ther . 2009 Dec;3(6):243-6.)
以下のような報告もあります。Ivermectin inhibits the growth of glioma cells by inducing cell cycle arrest and apoptosis in vitro and in vivo.(イベルメクチンは、in vitroおよびin vivoで細胞周期停止とアポトーシスを誘導することにより、神経膠腫細胞の増殖を抑制する)J Cell Biochem. 2019 Jan;120(1):622-633.
この論文では、培養した神経膠腫細胞を用いた実験で、5マイクロモル(μmol/L)以上で用量依存的に増殖抑制を認めています。72時間培養後の50%阻害濃度(IC50)が10μmol/L(10μM)程度でした。10μMは8.7μg/mlになります。
マウスの移植腫瘍を用いた実験では、1日に20 mg/kgのイベルメクチンを3週間連日腹腔内投与しています。(代謝率と寿命から人間で換算すると1日に3mg/kgを1〜2年間連日投与に相当)
以下のような実験もあります。抗がん剤の感受性を高める効果の検討です。
Ivermectin reverses the drug resistance in cancer cells through EGFR/ERK/Akt/NF-κB pathway.(イベルメクチンは、EGFR / ERK / Akt /NF-κB経路を介して癌細胞の薬剤耐性を逆転させる) J Exp Clin Cancer Res. 2019 Jun 18;38(1):265.
この研究では、抗がん剤耐性のがん細胞株の培養で、抗がん剤感受性を高める目的でイベルメクチンを3μmol/L(3μM)の濃度で投与しています。イベルメクチンの分子量を約870とすると、3μmol/Lは2610μg/L (2.6μg/ml)になります。
移植腫瘍のin vivoの実験系では、抗がん剤の感受性を高める目的で、 イベルメクチン (2 mg/kg/day) を27日間腹腔内に連日投与しています。 腹腔内投与なので、内服の場合は、3分の1くらいに相当します。
マウスと人間の代謝率の比を考慮すると、抗がん剤治療との併用であれば、1mg/kg/dayの連日投与は効果が期待できる量と言えます。問題は、がん細胞の種類によって感受性に差があることです。消化管での吸収や体内での薬物代謝にも個人差があります。 in vitroの実験では10マイクロモル(10μM)以上の血中濃度が必要と言えます。
感受性の高いがん細胞では1μMでも効果がでる可能性はありますが、抵抗性の高いがん細胞では10μM以上でも効果はでません。 つまり、他の抗がん剤治療と同じで、がん細胞の薬に対する感受性の違いによって、効果が出るかどうかが決まります。効果が出る服用量や血中濃度も異なります。
例えば、イベルメクチンはP糖タンパク質によって細胞外に排出されます。多剤耐性のがん細胞はP糖タンパク質の発現が亢進しているので、イベルメクチンも効きにくいと言えます。 これはP糖タンパク質の働きを阻害する薬と併用すると、イベルメクチンの抗腫瘍効果が高くなることを示唆します。
イベルメクチン自体にP糖タンパク質を阻害する作用がありますが、がん細胞のATP産生を低下させるメトホルミンや2-デオキシ -D-グルコースやSGLT2阻害薬(カナグリフロジン)などを併用すると、P糖タンパク質の働きをさらに阻害できます。
また、オリーブオイルなどの脂肪と一緒に服用するとイベルメクチンの消化管からの吸収を高めることができます。CYP3A4WO阻害するイトラコナゾールとグレープフルーツは薬物代謝酵素のCYP3A4を阻害してイベルメクチンの分解を阻害して血中濃度を高めることができます。(イトラコナゾールやグレープフルーツとの併用が禁止されている薬を服用している場合にはこの方法は使えません)以上のような工夫をすれば、1日24mg〜48mg程度でも血中濃度を抗がん作用が期待できる10マイクロモル(10μM)程度に高めることができます。
図:イベルメクチンは消化管(小腸)から吸収され(①)、血管内(②)に入って全身の細胞に運ばれる。肝臓では薬物代謝酵素のCYP3A4によって分解される(③)。がん細胞内に取り込まれたイベルメクチンはP糖タンパク質によって細胞外に排出される(④)。高脂肪食はイベルメクチンの体内吸収を高め(⑤)、イトラコナゾールとグレープフルーツはCYP3A4の酵素活性を阻害してイベルメクチンの分解を阻害する(⑥)。メトホルミン、2-デオキシ-D-グルコース(2DG)、SGLT2阻害剤はATP産生を阻害してP糖タンパク質の働きを阻害する(⑦)。